リアル半沢直樹
2023年5月31日に、広島県の安芸高田市の市長が「2020年の市長選の選挙ポスター制作費を踏み倒して敗訴」という見出しを見て驚いた。
安芸高田市長と言えば、京都大学を卒業後、三菱UFJ銀行に入行しアナリストとしての海外支所経験もある超エリートだったのに銀行を辞めて市長に立候補した方。
前安芸高田市長が現金授受問題で辞職したことで市長選が行われることになったが、立候補を表明したのは前市長が託したという当時の副市長一人だけ。そのことを知って強い危機感を覚えたことから即日、市長に立候補することを決めたという。
元銀行員だった人が市長になり、市長に反対する安芸高田市議会の派閥議員とのやり取りが、ドラマ「半沢直樹」をイメージさせることから「リアル半沢直樹」と言われている。
市長となった最初の市議会で居眠り議員がいたことを当時のTwitterで投稿したり、その後、その件で居眠り議員が所属する派閥議員達に呼び出されて「敵に回すなら市長の政策に反対する」と恫喝を受けたとこれまたTwiterで投稿していた。
その後、敵は市議会議員だけではなく、新聞社やテレビ局といった一部のマスメディアからも批判的な報道を受けるようになった。
正論の市長と、反対派の派閥議員、一部マスメディアとのやり取りが、面白いとYoutubeでも話題となり人気動画になっていた。
自分も最初は市長の言い分に賛同していたが、最近の市長はというと、反対議員の質問に対しては、「何度も説明しています」「しっかりと理解してください」と相手の質問を批判するだけで質問に答えることが減っていった。
おそらく、反対議員達は何とか、市長に非を認めさせたいという一心で、何とか上げ足を取りたいことで、どうでと良いような質問ばかりしてくることから市長も嫌気がさしたことや、余計なことを言って前回の答えと異なることを言って、揚げ足を取られたく無いという思いもあって、足を揚げようとしなくなったのだと思っている。
市長の人間性が・・・
市長の気持ちはわからなくは、ないが、それでも議員のことを見下したような感じで、議員からの質問を批判するような市長の人間性に対して好感が持てなくなり市長と議員とのやり取りに関する動画にも興味がなくなった。
その後、市長が2020年の選挙戦で選挙ポスターの制作費の未払いがあり裁判になっていたことを知った。
判決は市長側の敗訴。
あの市長が未払いで訴えられた?
人間性は別にして、規則を熟知し、論理的に話していた市長がそんな理不尽なことをしていたのか?と驚いた。
調べてみると制作費等の総額107万4,549円の内、一部しか支払ってないのは事実だった。
そして、その理由は判決の内容から察することができた。
- 市長側は、公費での負担となる上限にあたる34万円余りを報酬額とする合意があったと主張するが、営利企業が赤字になることをいとわずに請け負う理由は乏しい。双方の間で報酬額に関する明確な合意はなかったものの、業務内容に見合う額という共通認識があったと認めるのが相当だ」と指摘
何と公費の負担の上限までしか払わないという合意があったというのが市長側の言い分だった。
安芸高田市の場合、公費は以下のように計算されているとのこと。
- ポスター 962円×237ヶ所=227,994円
- ビラ 7.51円×16,000枚=120,160円
※市長選は16,000枚まで作成可能
- 合計 348,154円
市長が印刷業者に支払っているのは公費上限の348,154円で一致する。
市長曰く、実際には348,154円かかることは、ほぼなく、業者が公費上限を把握しているので公費上限で見積もってくるのが慣例になっているとのこと。
しかし、今回の業者は公費の約3倍の107万4,549円を請求していることから、市長の言う公費から大きくかけ離れている。
市長は、この件を、両者が「公費負担」でと思って発注・受注をしたところ、受注側が「公費負担の金額(水準)を確認・認識していなかった」とも自身の「X」に投稿している。
本当にそうなのだろうか?市長の言い分には疑問を感じたのでもう少し調べてみた。
市長が上記の投稿の際に業者とのメールのやり取りの画像を投稿していたので一部を伏字にして記載する。(2020年7月30日~2020年7月31日)
市長:
- いまさらですが、今回の発注でお支払いの総額はどれくらいになるものなのでしょうか。
- 選挙運動の費用に制限があるため、念のためお伺いする次第です。
業者:
- ビラ・ポスターは弊社から安芸高田市へ請求書を指定の用紙で提出し、安芸高田市から入金されるものだと思います。
- したがって、xx様へは負担が無いかと思いますが、説明会資料にそういった説明書きや提出書類はございませんでしたでしょうか?
市長:
- はい、ポスターとビラの費用は公費負担です。
- ただ、選挙運動に関連して無尽蔵に支出できる訳ではなく、総額に制限が設けられているとの認識です。(今回の場合は500万円程度)残りどの程度の支出が可能なのかを把握しておきたくお伺いしました。
- 正確なルールは改めて確認しておきます。
業者:
- お世話になります。
- 全体支出に関してのルールまでの知識は無いのですが、印刷物については、決められた計算式の元でのご請求になるのではないでしょうか?ルールのご確認を頂けましたら、お教えください。
- よろしくお願い致します。
ポスター制作期間が短い
業者とは2020年7月23日(木)以降、打合せを行っている。
※判決文より
そして、2020年8月3日(月)に発注された内容を全て完了させて、市長に見積書を送付しているとのこと。
打合せを開始したのが、2020年7月23日で、選挙の公示が2020年8月2日だったので、1週間程度で選挙ポスターとビラを作成していることになる。
判決文の中でも「契約の確定から納品まで極めて短期間」だったということを述べていることからも、休日も出勤しての突貫作業だったことが伺える。
市長が選挙への出馬を決めたのは、投票日の1ヶ月前。
全く準備もしていなかったというので、選挙ポスターやビラの準備に取り掛かったのはかなり遅かったはず。
それは、市長が公開しているメールの中にも示されている。
メールの最初で「いまさらですが、と前置きしたうえで、発注総額の確認をしていることから、金額を確認せずに発注していたのは明らか。
つまり、時間がなく、見積もりももらわずに、発注をかけて作業が全て終わって見積もりをもらったら、通常の3倍だったので、市長は妥当な価格だと思えず、公費上限価格しか支払わなかったということになる。
印刷業者にすれば、他の仕事もある中で、1週間程度でポスターとビラを印刷まで完了させないといけない。
しかも、2020年の7月23日~8月2日の稼働日と言えるは5日間だけ。
市長が公費上限と言っているのは、適切な手番があっての話になる。
通常よりかなり短い期間で作業を完了させないといけない場合、休日作業や夜間の作業も加わるだろうから特別料金が発生するのは当然のことだと思う。
市長は、公費上限での請求が慣例という部分にばかり目がいってしまい、今回の請求金額が実は妥当だった可能性があることに気が付いていないように感じられる。
そういう意味で、今回の裁判の結果は、妥当だと言える。
選挙ポスター・チラシ製作の請求は公費上限が慣例?
裁判の結果については、以上となるが、市長がいっている、選挙ポスター・ちらしを製作した場合の請求額が公費上限になってしまっているという点については、初めて知ったので調べてみた。
広島市議選で、公費が最も高い選挙区は安佐北区で109万2866円。
過去の例で、同じ地区の候補者のポスター1枚が203円〜2759円までの開きがあった。
4月の広島市議選では、候補者は公費をいくら受け取ったのだろう。最も高い安佐北区選挙区は109万2866円が上限となる。市に情報公開請求した。
得票が少ないと支給されないが、80人のうち77人が対象だった。うち現職54人でみると、上限額に対して100・0%(四捨五入)だったのは13人。請求額は11万8389~109万2866円。ポスター1枚当たりの単価でみると203~2759円で、なんと14倍もの開きがあった。
上記の例だと、54人中13人が上限額100%で請求されていたが、これは製作期間がなくて高くなったということではなさそうだ。
つまり、要した費用を適切に請求せずに、公費の上限ギリギリに設定している業者がいるということになる。
市長を訴えた、印刷業者も、市長とのメールのやり取りの中で、「印刷物については、決められた計算式の元でのご請求」になるのでは?と回答していることからも公費上限で請求するというのは慣例になっているのは間違いないと思うし、市長がポスター制作を依頼した印刷業者も上限で請求するタイプだったと思われる。
この点を市長は問題にして欲しかったのかもしれないが、市長に常識がなかったことが仇になって、裁判で負けてしまった。
今回は製作期間が短かったことから印刷業者に優位に働いてしまった。
実際には、請求額まで費用は発生していなかったかもしれないが「短期間」対応であることは事実であり、通常対応とは異なるので、請求費用も通常とは異なって当然。
これでは、市長に勝ち目はない。
市長は実に頭のいい人ではあるが、世渡りが非常に下手なので、必要以上に敵を作ってしまう。
世の中が、市長のような人ばかりであれば、世渡りなんてことは気にしなくてもよいが、世の中は世渡り上手な人に力が集まるようにできているので「正論」だけでは道理が通らないことがあることを知るべきだと思う。