ファイル共有ソフト「Winny」
20年ほど前になるのだろうか?
Winnyというファイル共有ソフトを1人のソフトウェア開発者が2ちゃんねるのダウンロードソフト板で公開した。
ハンドルネームは47氏。
掲示板への最初の書き込み番号が47番だったことから。
WindowsXPが主流だった時代だ。
既にWinMXという、ファイル共有ソフトが存在していたので、47氏が公開したものは、WinMXの 次ということから、MXの部分をそれぞれ次のアルファベットにしてNYとし、 WinNYと名付けた。
これが、Winnyに変わった。
Winnyは、サーバーを使わず完全なP2Pネットワークを構築、暗号化通信でのデータのやり取りが可能。
そんなことからサーバーを介さず、個人間で動画や音楽、ソフトウェアを交換するといった用途で使われるようになった。
Winnyが社会問題
その結果、著作権侵害が横行し、更にはデータに見せかけて情報漏洩を目的としたコンピュータウイルスが含まれるようになっていった。
そして、自衛隊の機密情報が流出したり、警察の犯罪者情報流出、学校では生徒の個人情報が流出するようになった。
Winnyは社会問題になり、当時の官房長官だった元安倍首相が会見で「情報漏洩を防ぐ最も確実な対策は、パソコンでWinnyを使わないことです。」と呼びかけていた。
情報漏洩に繋がるということで会社でも使用禁止にする対策を迫られた。
Winnyは、待ち受けポート番号が固定ではなく、1024番以上からランダムに選ばれるため、特定のポートをブロックするという方法では対処できず、ソフト自体もバージョンアップされていったので、ファイル情報で判断してブロックするという方法も「イタチごっこ」になった。
Winnyを完全にブロックするのが難しかったので、社内システムを運用・管理している者にとってはコンピューターウイルスのような存在だった。
警察も必死に捜査を行ってWinnyを悪用した人達を逮捕していった。
Winny開発者が逮捕?
ところが、2004年5月9日に驚くことが起きた。
なんと、Winnyの開発・配布者であった47氏が逮捕されたのだ。
容疑は、「著作権法違反幇助」
Winnyを使って著作権のあるデータを公開した人を助けたというもの。
ソフトウェアを作って公開しただけで逮捕というのは正直、驚いた。
これが、コンピュータウイルスのように実行しただけで被害が生じるような悪意のあるソフトウェアであれば仕方ないが、Winnyは悪用が、できるというだけで悪意があるソフトウェアではなかった。
そんな容疑で逮捕されたのではソフトウェア開発者はP2Pソフトを怖くて作れなくなってしまう。
それほど、衝撃的な報道だった。
Winny事件が映画化
そんな、Winnyが映画となり、2023年3月10日から公開された。
ネット史上最大の事件。
実話を基にした、挑戦と戦いの記録。
不当逮捕から無罪を勝ち取った7年の道のり。
殺人に使われた包丁を作った職人は逮捕されるのか?
【出典】映画『Winny』|公式サイト
Winnyの開発者が逮捕されたのは、まさに殺人に使われた包丁を作った職人が逮捕されたのと同じこと。
自動車メーカーは起訴されないのか?
自動車による、事故により多くの人が怪我をしたり死亡している。
交通事故が起きるのは、自動車に原因がある。
そして自動車を開発・製造しているのは自動車メーカー。
自動車メーカーは、交通事故が起きていることは十分に周知しているはずだが、新しい車が次々に開発されて生産・販売している。
これは悪意があるということになるのだろうか?
そして、死亡事故を幇助したので、殺人幇助として罪が問われるのか?
愚門だということは、検察側は百も承知している。
問題なのは国の世間に知られては困る情報が漏洩しないこと。
Winnyを使用すると逮捕されると世間に知らしめる必要があった。
そんなことから、開発者を逮捕(起訴)すれば社会的にもインパクトがある。
とにかく逮捕するだけでも良いのでWinnyの開発者を起訴しろ。
そんな指示が、検察に対して出されたのではないだろうか?
でっち上げ裁判
今後の日本を考えた場合に、知的財産権を重視しないといけないから開発者を逮捕したという見方をする人もいるようだが、それでも著作権違反の幇助というのは、かなり無理があると思う。
それでも国の情報漏洩を阻止するために起訴しなければいけなかった。
しかし、通信内容が暗号化されサーバーを経由しないで個人のパソコン間でデータのやり取りが行われるのだから著作権違反を見つけるのも容易ではなかったと思う。
Winnyについては、開発者から合法的に使う具体的な方法の説明がないとか、適法の場合のみ利用できるような設計になっていないといったことが指摘されていた。
しかし裁判では開発者の行為が悪質かどうか?が問われた。
Winnyによる違法行為が明らかになったあとも、開発者はアップデートを続けていたといった内容を追及した。
その結果、1審では有罪となった。
おそらく、有罪か無罪かは関係がなく悪用できるファイル共有ソフトを開発すれば逮捕されるということを社会に知らしめることが、できれば良かったのだと思う。
納得できない弁護側は、当然、控訴した。
そして、2009年10月には、逆転無罪の判決を勝ち取った。
検察側はこれを不服として上告。
しかし、2011年12月19日、最高裁は検察の上告を棄却し、無罪が確定した。
腐りきった日本の政治
弁護側の担当弁護士が、2020年に小説にした。
なぜ、小説にしたのだろうか?
それは、Winny事件を知らずに育った世代に、日本にも国家権力を相手にして闘った本当の技術者がいたことを知ってもらいたい。日本の技術がこんなにまで衰退した、その一つの答えがここにあると思うということから。
日本の技術が衰退した理由の一つに、Winny事件が関係している・・・
既に日本の政治は腐りきっているのかもしれない。
自衛隊、警察の機密情報が漏洩したということは、そもそも、機密情報を個人が持ち出せてしまえることに問題がある。
しかも、そういう人間だから、Winnyを使用して著作権法に違反する行為を行ってしまった。
そういう人間が国の機密情報を自由に取り扱えていることに恐怖を感じた。
日本は、立法権、行政権、司法権の3つをそれぞれ、国会、内閣、裁判所の3つの機関が独立して所有する、三権分立だと言われている。
しかし、立法である国会は現在、与党である自民党が決定権を持っている。
そして、行政は内閣だというが、これも実質、与党議員で構成されている。
つまり、立法権、行政権は共に自民党が所有しているこいとになる。
この仕組みがあるために、一つの政治団体が行政に圧力をかけることができてしまう。
Winny事件のようなでっち上げ起訴が出来てしまうことにもなる。