牛乳は工業製品ではない
牛乳は捨てるほどあるのに、なぜ値上げなのか?という記事を見た。
これを書いた人は、牛乳が簡単に生産量を減らせると思っているのだろう。
牛乳は名前の通りで牛の乳。
牛が出すものなので、牛乳の需要が減ったから乳を出すなと簡単に減らせるものではない。
牛は生き物なので、生きていくための食物や水分は摂取しないといけない。
これも、牛乳の需要が減ったからと、簡単に減らせるものではない。
そして、牛乳は生物なので長く保存できない。
一生懸命に搾乳しても時間が経てば廃棄するしかなくなる。
牛乳の生産量を減らすということは、牛を減らすということであり、命に関わる話になる。
工業製品のように売れなくなったから生産数を減らせば良いということではない。
このため、酪農家は余った牛乳を泣く泣く捨てないといけなくなる。
生きている牛なので、生産設備を止めればおしまいというわけではない。
2014年のバター不足問題
2014年以降、牛が増えている。
これは、2014年にバター不足が問題になったからだ。
畜産クラスター
国は生乳の生産を増やすために畜産クラスター事業を打ち出した。
畜産クラスターとは、畜産農家をはじめ、地域の関係者(コントラクター等の支援組織、流通加工業者、農業団体、行政等)が連携してクラスター(ぶどうの房)のように一体的に結集することで、地域ぐるみで高収益型の畜産を実現しようというもの。
簡単に言えば、繁殖性を向上させるために雌牛を増やせば補助金を出す。
それに伴い必要となる設備などにも補助金を出す。
家族経営であっても法人化すれば補助金の対象にするから雌牛を増やせと酪農家に投資を促した事業だと言える。
しかも、バター不足という追い風の状態で増産耐性を整えるための補助金を出してくれるとなれば、まさに渡りに船ではある。
当然、酪農家は投資を進め増産体制へと舵を切りたい。
しかし、酪農家は牛乳の需要が減っても簡単に牛乳の生産量を減らすことができないことは周知している。
補助金が出るとはいっても大きな投資になるので多額の借金を背負うことになる。
それでも、多くの酪農家が増産に協力をした。
その結果、全国の生乳の生産は2014年度の733万トンから2021年度は764万トンまで増加した。
新型コロナが拡大で牛を減らせ?
しかし2020年、新型コロナウイルスの感染が拡大し、学校が長期に渡り閉鎖となり学校給食が減ってしまった。
当然のように外食や観光需要も落ち込んでいき、生乳の需要が減り供給過剰状態になった。
乳業メーカーは日持ちのしない生乳を保存が利く脱脂粉乳に加工することで暫定的に対応した。
しかし脱脂粉乳の在庫量が昨年最高水準に達すると、酪農家は生産の抑制をしなければならない。
酪農家にすれば、国から増やせと言われて借金までして増産し、更に生産した牛乳の需要が減ったから今度は、捨てなければいけないというのは、何ともやりきれない気持ちになったことだろう。
国はそんなことから、生乳の生産抑制のための緊急支援事業を発表した。
牛を早期淘汰した場合、1頭あたり15万円の助成金を交付するというのだ。
これにより4万頭の削減を目指した。
牛は生きている
国は生き物を何だと思っているのだろうか?
もう一つ問題がある。
酪農家は「経営が苦しくなったから」と乳業メーカーへの納入価格を簡単に引き上げることが、できない特有の業界事情がある。
牛乳やバターなどの原料となる生乳は、地域別に農協などが作る指定団体が集め、全国の乳業メーカーに販売する「一元集荷体制」が組まれている。
乳価は指定団体と乳業メーカーの交渉で決まってしまう。
このため酪農家は自分達が作ったものなのに価格を決められないのだ。
その結果、牛乳は捨てるほど余っているのに、値上げすることになってしまった。
これを責めることができるだろうか?