受信料の集金委託会社の株価暴落
NHKの営業代行、つまり受信料の集金を委託されていた会社の株価が暴落した。
2022年1月、ある上場企業の株価が50%近く消し飛んだ。その名もエヌリンクス。東証2部上場で、NHK受信料の集金を行い、その受託収入が売上高の7割近くを占める企業だ。
株価暴落を招いたのは、NHKが2021年1月に示した改革案をめぐる報道だ。2023年9月までに外部業者への受信料集金の委託を全廃する方針を打ち出すという内容で、計230億円にのぼる法人への集金委託市場が消し飛ぶ見込みとなったのだ。
【出典】NHK、ついに見えてきた「本気のコスト削減」の全貌 | メディア業界 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
なぜ、暴落したのか?
暴落の原因は、NHKが2022年1月12日に戸別訪問で受信料の契約をする外部スタッフを削減することを打ち出した。
これにより外部業者への委託契約を2023年9月で全廃することになった。
これを受けて、2022年1月12日までは、340円程度だった株価が1月28日には186円まで下落している。
エヌリンクスとは?
エヌリンクスというのはどういう会社なのだろうか?
双子の兄弟が経営するベンチャー企業で、2010年に設立された。
2021年1月現在で正社員は809名で以下のような事業を行っているとホームページには記載されている。
- インターネットメディアの運営/コンテンツの制作
- チャットサービスの運営
- 不動産の仲介、売買、斡旋、賃貸及び管理
- マッチングアプリの企画/開発/運営
- 人材支援・採用コンサルティング
- 営業アウトソーシング業
NHKの受信料の集金業務は、売上の7割を占めているにも関わらず、一番下に書かれている、営業アウトソーシングの中でも、更に下の方に「放送受信料の契約、収納業務」と地味に記載されている。
しかし主要取引先は、以下のようにしっかり最初に記載されていた。
- 日本放送協会 大手通信会社 IT関連企業 広告代理店
NHKの受信料は支払わないという人が増えている中、売り上げの7割が、その受信料の集金で得たものだというのは表立っては言いにくいのだろう。
しかし、事業内容がインターネットメディア、不動産、マッチングアプリ、人材支援、営業アウトソーシングと幅広いので何を行いたい会社なのかが見えてこない。
競合がないから始めた
会社のホームページだけでは無理だと判断して、何か記事がないかと探してみた。
すると、東洋経済オンラインにエヌリンクスの社長がインタビューに答えている記事があった。
それによると、NHKの集金代行には競合がないという点に目を付けて、この事業を始めたとある。
エヌリンクスの「エヌ」は、やはりNHKの「N」ということのようだ。
NHKの受信料はほかにない商材だと思いました。1つ目は競合がいないこと。契約・収納代行業務は「この期間、この地域はこの会社しか行ってはダメ」と決められているので、何社も同じ地域で営業することがありません。2つ目は商品の説明が簡潔であること。受信料制度は正直、常識の範疇なので、難しい説明は不要です。3つ目は法律で契約が義務づけられているということです。
【出典】NHK受信料、訪問による契約業務はまだ伸びる | メディア業界 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース
確かに競合がなく、支払いは法律で義務付けられているので、テレビがなくならない限り売り上げは減らないと考えたのは良いアイディアだと思う。
実際、3人で始めて、2年目には100人体制、とんとん拍子に成長を遂げて2018年には上場企業の仲間入りを果たしている。
売上は、2019年2月で、47億5千7百万円、営業利益は約3億8千万円
【出典】(株)エヌリンクス【6578】:単独決算推移 - Yahoo!ファイナンス
この7割がNHK集金代行によるものだとすると、33.3億円が集金代行の売上になる。
コロナでエヌリンクスの思惑が外れた
エヌリンクスは上場した時点では安泰だと思っていたはずだ。
安定した収入を後ろ盾に他の事業にも進出して、将来的にはIT事業を主にしたIT企業を目指す予定だったのだろう。
しかし、新型コロナの登場で状況が大きく変わった。
感染防止対策のために直接訪問による集金ができなくなってしまった。
これが、NHKに外部委託に支払っている「契約・収納費」に対する効果がないことを明らかにしてしまった。
現在、外部には合計、約300億円の「契約・収納費」を支払っている。
しかし、これによりNHKに入ってくる金額も同じ程度だった。
つまり、外部委託による「新規契約・集金」業務には効果がなかったことがわかった。
それなら、ネット同時配信業務を拡大し、放送事業を削減する。更には年間1万円ちょっとになる受信料を値下げする方が前向きだ。
その結果が、2022年1月12日の受信料の契約をする外部スタッフを削減するという方針だと思う。
エヌリンクスは、事業を立ち上げる前にNHKのことを十分研究していたということだが、NHKにとって利益にならないような仕組みにしてしまったことは大きなミスだと思う。
33億円の売り上げで3億円程度の利益だとすれば、契約料の10%程度を手数料として取得しているのだと思う。
それでも、NHKには9割の契約料が入ってくるはずだ。
なぜ、収支がトントンになるのだろうか?
これは新規契約の場合には「報酬(約2万円)」が支払われているということだ。
このような報酬により外部委託による効果がなくなってしまっているのだろう。
エヌリンクスは7割を占めていた売上がなくなるので、経費削減・人員削減を迫られることになるが、このピンチをどう切り抜けるのだろうか?