第ニ夜は特殊メークの型取りから始まった。
特殊メイクに必要なドロドロの液体が首元から頭に向って塗られていき、顔全体が覆われていく。
5分ほどで固まり、顔の型が出来上がる。
固まるまでの時間、広瀬は安心感でウトウトしてしまい、固まった顔の型が外されると「ちょっと寝ちゃった」と言って周囲の笑いを誘っていた。
広瀬にとっては、エステで泥パックの施術を受けている気分だったのかもしれない。
型取りは初めての人だと呼吸ができなくなるのではないか?とビビったりする人が多いということだったが、広瀬は「安心感で、どんどんどんどん夢の中に」ともう少し続けたかったような感じで話していた。
型取りが終わったあと、「映画の人になった気分です。」と言っていたが、未だに自分自身が「映画の人」だということが実感できていないようだ。
役を演じるとは?
えーっ、何だろう?こんなに、なんか、ヘラヘラした回答で良いのかな?なんだろ?役を演じる感覚ですか?うーん、感覚と直感って、なんか一番、うーん、何言ってるんだろ?私は。セリフとか、(台)本とか誰かが作ってくれた人間像を与えてもらわないと、ちょっと、こういう時、うん、意味わかんないこと言っちゃうから、困るんですよね。
顔合わせ
2022年公開の流浪の月で共演する横浜流星との顔合わせの場で監督が2人にお互いのイメージを尋ねた。
横浜流星のイメージは?
まつ毛が長い。作品見てても、なんか凄い、似てる目の人が、いないなぁ〜と言いながら手でまつ毛が開くとこを表現した。
広瀬すずのイメージは?
陽の部分もありつつ、隠の部分もなんか、こう凄く持っている人なんだなぁという印象が勝手に感じてましたね。
陽だけじゃなくて・・・まぁ人間みんなそうだと思うんですけど、内に何か秘めたものが、凄くあるんだろうなぁって勝手に感じてましたと、広瀬の方を見ながら言うと、広瀬は、「ないですよ、そんなの」と笑いながら答えた。
流星は広瀬のイメージが陽と隠だと言ったあとで、これって誰でも一緒?だと自分でも気が付いて、色々と付け加えていたが、最初に言った言葉がイメージを的確に表現していたと思う。
あとから付け加えた、内に秘めているものは、広瀬が答えた通り無いと思う(笑)
その後、監督と俳優2人だけのリハーサルが4時間に及び行われた。
どんなリハーサルだったんですか?
ずっと、エチュードというか、おんなじシーンを何十回とか、わかんないんですけど、まぁ、エチュードなので、考えながら、次、こういう会話に進んだら、いいのかな?とか、次のこの話題にもってくのに、ここを埋める、ここと、ここを埋める会話をどうすれば、いいかな?とか、やっぱ考えながら、やるじゃないですか。なんか、その考えるっていうのは、役より自分が前に出ちゃってる瞬間?だから、やっば、それが、もうちょっと、なくなると、いいよねっていう・・・だから、まだまだリハーサルにも、なってないよねって言ってました。
エチュードというのは、音楽でいう楽器の練習のために作られた練習曲のことで、演劇の世界では、台詞を決めずに、その場で芝居を行うことを指す。
映画のロケ地へ
そして、広瀬は静岡県富士宮市の蝉の声が鳴りやまない公園に演出助手の井上といた。
広瀬が出演する場所では、なかったが、主人公の幼少期に、未来を変えた場所だということで、役作りの一環で見ておこうと考えて来たようだ。
静岡県出身の広瀬なので、懐かしいという気持ちもあったと思うが、そんな風には見えなかった。
井上が、ブランコに乗り悪戦苦闘している姿を見ていて「下手、絶対ブランコ苦手!」と笑いながら、井上さんの方へ走って行った。そして隣のブランコに飛び乗り、ブランコは、こんな風に乗るんだよと言うかのようにブランコを漕いでみせた。
しかし、井上は苦手なブランコで遊んでいたわけではなく、撮影での重要なシーンで使われる場所の確認をしていたのだ。
井上が乗ってるブランコからだと海が見えたり隠れたりすることを広瀬に伝え、自分が土足で漕いでいたブランコだったので、紙を敷いてから広瀬に座って漕ぐように勧めていた。
広瀬は、その後、ブランコに座りながら以下のことを話していた。
自分で・・・でも体験できるのは、凄い大きいですよね。
あまり、過去の場所を巡るとかないから。他の現場だと。贅沢ですよね。
李 相日(リ サン イル)
この監督の作品「怒り」には6年前、17歳の時にも出演し、「演じる意味と心構え」を叩きこまれた。
その時のことを以下のように語った。
1、2回で李さんにOKって言われて、「えっ?」「えっ?」みたいな。パッと顔を見ても全然、OKの顔じゃなくて、なんか、このあと、ちょっと来いっていわれて、凄い現場離れて、誰もいないところに呼ばれて、凄い冷静なトーンで、「この映画、壊す気?」と言われて、まぁ確かに台本上でも、その私が演じていた役が映画のラストシーンだったんです。
だから、それ言われて、それは、もはや悔しいというより恐怖でした。
流浪の月の撮影が始まる。
警察で取り調べを受ける主人公のシーンを撮影になる。
OK、カットがかかった。
監督は「自分は、なんでここにいるのか、わからないのに、なんでこんなこと聞かれるの?」という問いを広瀬にぶつけた。
広瀬は、暫く考えていたが監督の問いがわからないようで、問いに問いで監督に返した。
- ここにいる理由がわからないってどういうことなんですか?
「監督は、このシチュエーション(取り調べ)に対しての違和感とか心の中に手を突っ込まれてくる気持ち悪さと怖さと、そことせめぎ合わない」と回答を返した。
すると、広瀬は暫く考えたのち、表現方法を変えてセリフを言ってみた。
しかし、「訴えたいのはいいんだけど、何でわかってくんないのよ!に見えちゃったよ」と監督から言われた。
そんなことが、このシーンだけで20回を超えた。
撮影開始直後は、監督自身もハッキリしたイメージが確定していないので試行錯誤を繰り返すことでイメージが固まってくる。演じる側も繰り返すことで、違ったものを切り捨てイメージを固めていくことになる。
湖に潜るシーン
次のシーンでは、広瀬は夏なのに冷たい雨の日に湖に身を沈めていた。
「声にならない叫びを上げる」シーンになるようだ。
夏とはいえ高地で雨となると水はかなり冷たく感じたはずだが、広瀬は寒い、冷たいという言葉は発しなかった。
そして、水に全身を沈めた。
10秒程度沈んで浮かんできたかと思うと右人差し指を立てて、もう一回と自らリテイクを申し出た。
水中での演技に納得がいかなかったのだろう。
水中で、どのような演技をしていたのかは、番組内では見せなかったのでわからないが、2回目は、浮き上がる前にブクブクと泡が出てきたので、1回目とは違う演技だったのは間違いない。
そして、OKが出た。
監督は水中から出てテントの中でアルミブランケットに包まれて身体を暖めている広瀬に言った。
「お疲れ様。モヤモヤ考えすぎても、しようがない感じがしてきた?」
広瀬は、
- 頭を使わなかった。
その答えに監督は「頭、使わなかったよな、あはははは」と満足そうだった。
食事制限
テントから出てきた広瀬の顔は真っ白だったことから相当の寒さだったことが感じられた。
歩きながら、以下のことを話していた。
面白いですね、こういう撮影。
一気に紐が緩んだ感じがしました。
すっきりした、なんか。
どうしよう、すっきりしてニヤニヤしちゃう。
ラーメン食べたいなぁ~
伊藤さんにラーメンだけダメって言われているんです。
今回の映画では、監督がイメージする儚げなシルエットの女性を演じるため、体を絞るトレーニングに加え食事制限が課せられていた。
4か月ぶりのラーメン
そして、2か月半の撮影が終わった、広瀬は世田谷の町中華の店にいた。
映像で、電話番号が記載されている看板を隠すことなく出していたので、店の許可をもっているのだろう。
そして、そのことから広瀬の「いきつけの店」では、ないはずだ。
店に入ると、広瀬のテンションは上がった。
えーどうします?
私、ふつうのラーメンにしようかな?
ラーメンは4か月ぶりになる。
広瀬の顔は嬉しさで泣きそうな顔になっていた。
4か月ぶりのラーメンを食べながら、感情が落ち着いて来た時に、以下のことを話していた。
このお仕事関係なく人として悩むこととか考えるとか、なんか悩める人でいたい。
なんか、悩んでいるってことは、もっと自分は、こうなれるのかなとか、わかり
やすく言うと。なんか、そう思っているってことなのかなって凄く今回、思った
のでそれは、人としてなくしたくないなと思います。
言い終わると、コップに入っていた飲み物を飲んで「プハァ」と言いながらコップを戻した。
一瞬、ドキッとした。
未成年がビール?と思ったからだったが、しかし広瀬も既に23歳なのでビールを飲んでも何の問題もないことに気がついた。
そして、麺を全て食べきり、残ったラーメンのスープを、「失礼します」といって飲み始めた。
スープを飲んでいる途中に、「このお風呂、このお風呂欲しいですね。入りたい。」
と言っていたが、そんな空想をしてしまうほどラーメンが好きということになる。
あっという間にスープを飲み干すと、満足そうに「塩分最高!塩分美味しい!」と満面の笑みを見せていた(笑)
今回、ネットニュースで、偶々、見つけたニュースのおかげで、今回の情熱大陸を見ることができて、とても良かった。
ネットニュース、最高! ネットニュース 美味しい!