新型コロナの治療薬はいつできるの?
新型コロナウイルスの治療薬というのは、いつ承認されるのでしょうか?
日本では唯一、米国のレムデシビルが承認されていますが、WHOでは、2020年11月20日にWHOが以下のような見解を示しています。
- 死亡率の低下などにつながる重要な効果はなかった
しかし、厚生労働省は、「承認時に根拠にした治験のデータが否定されたわけではないうえ、有効性がないという結果でもないため、承認について見直す予定はない」ということです。
現状、治療薬がない状態で、日本で2020年5月にも承認されると期待されていた、「アビガン」ですが、ようやく、2020年10月16日に製造販売の承認申請が行われました。
厚生労働省の審議会は2020年12月21日、非公開で会合を開いて有効性や安全性の審査が行われました。
結果は、現時点のデータで有効性を明確に判断するのは困難ということで継続審議となりました。
10月に申請して審査が12月21日というのは、随分とのんびりしているように感じます。
審議会の委員は、アビガンか偽薬かを患者に伝えずに投与する「単盲検試験」を疑問視しているようで、「今回のデータでは、医師の先入観が影響している可能性を否定できない」というのです。
アビガンは、2020年5月までに3000例にも及ぶ投与が行われています。
芸能人の方がコロンに感染した時もアビガンで治ったと言われていた方もいました。
そもそも、5月の時点で3000例ですから、今は更に多いはずです。
にも関わらず、「現時点のデータで、有効性を明確に判断するのが困難だった」というのは、どういうことでしょうか?
しかも、アビガンはインフルエンザの治療薬として2014年3月に承認をされているのです。更に中国では2020年3月からアビガンの有効性を認め使用しています。
それなのに、未だに承認されないのはどういうことなのでしょうか?
これに対して、レムデシビルは米国で承認されているものだという理由で特例承認扱いで申請から3日で承認されています。
しかも、WHOは、重要な効果はなかったとしているにも関わらず、承認を取り消す予定はないということです。
考えれば考えるほど、疑問を感じます。
ということで、なぜ承認されないのかを確認していきたいと思います。
アビガンはどんな薬?
まず、アビガンがどんな薬なのかを理解する必要があります。
説明
- 本剤は、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分な新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、本剤を当該インフルエンザウイルスへの対策に使用すると国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品である。本剤の使用に際しては、国が示す当該インフルエンザウイルスへの対策の情報を含め、最新の情報を随時参照し、適切な患者に対して使用すること。
- 新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症に対する本剤の投与経験はない。添付文書中の副作用、臨床成績等の情報については、承認用法及び用量より低用量で実施した国内臨床試験に加え海外での臨床成績に基づき記載している。
効能又は効果
- 新型又は再興型インフルエンザウイルス感染症(ただし、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効又は効果不十分なものに限る。)
警告(一部のみ抜粋)
- 動物実験において、本剤は初期胚の致死及び催奇形性が確認されていることから、妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には投与しないこと。
- 本剤は精液中へ移行する1)ことから、男性患者に投与
する際は、その危険性について十分に説明した上で、
投与期間中及び投与終了後 7 日間まで、性交渉を行う
場合は極めて有効な避妊法の実施を徹底(男性は必ず
コンドームを着用)するよう指導すること。また、こ
の期間中は妊婦との性交渉を行わせないこと禁忌 ( 次の患者には投与しないこと )
- 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人〔動物実験において初期胚の致死及び催奇形性が認められている(「6.妊婦・産婦・授乳婦等への投与」の項参照)〕
- 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者
【出典】アビガン錠添付文書
アビガンはインフルエンザ用の薬ですが、警告・禁忌で繰り返し書かれているのが、「初期胚の致死及び催奇形性が認められている」という内容です。これがあるために、国が判断した場合にのみ、患者への投与が検討される医薬品ということになります。
リスクがある薬剤にも関わらず承認されたのは、アビガンのウイルスの増殖を抑える仕組みが他のインフルエンザ治療薬とは異なるためです。
既存薬は、ウイルスを細胞内に閉じ込めて増殖を防ぎますが、アビガンは、感染した細胞内でウイルスの遺伝子複製を阻害して増殖を防ぐというものです。
胎児への影響ということになれば簡単に検証することはできません。
このため、副作用については色々と審議されたのではないかと思います。
ましてや、承認されれば、多くの人に投与されますので、承認する側とすれば慎重にならざるを得ないかと思います。
副作用の問題が解決したとしても、肝心の新型コロナウイルスに対する効果がなければリスクだけが残ってしまいます。
アビガンは、2014年に承認されているとは言っても、新型コロナウイルスに処方する薬剤として承認されていませんので、新型コロナウイルスに対して有効なのかどうか?という点が審議される内容になるわけです。
アビガンは、ウイルスの増殖を抑えるという口から服用する薬なので、人工呼吸器が必要な状態の重症患者には使用できません。
これに対して、レムデシビルは、点滴で投与するものなので、人工呼吸器を必要とするほどの重症患者に有効な薬です。
そうすると、日本ではレムデシビルは効果があったのか?という点が気になります。
東京 渋谷区の日本赤十字社医療センターの出雲雄大呼吸器内科部長は、「日本で特例承認されてから、これまでおよそ40人の新型コロナウイルスの重症患者に対してレムデシビルを投与してきたが、生存率の向上や、人工呼吸器から離脱できるようになるなど、効果を実感してきた。レムデシビルは、1人に25万円程度かかるなど高価なこともあり、WHOは『推奨しない』と判断したのかもしれないが、命はお金より重いはずだ。ほかに特効薬が出るまでは、私たちとしては引き続き使っていくことになる」と話していました。
上記によると、効果を実感してきたということなので、日本では効果があるということだと思います。
アビガンとレムデシビルが共に効果があれば、患者の状態に関わらず投与できることになります。
仮にアビガンもレムデシビルも効果がないということになると、新薬なり、既存の薬から効果のあるものを探すという作業が必要になりますが、現状はどうなっているのでしょう?
抗体医薬「バムラニビマブ」
アメリカでは、軽症から中程度の症状の患者に一定の効果がみられるとして、「バムラニビマブ」に対して緊急の使用許可を出したと発表しました。
抗体医薬とはどういうものでしょうか?
- 体内の異物を排除する「抗体」を人工的に作りだす薬
ワクチンは人間の免疫力を使って「抗体」を作りますが、バムラニビマブは人工的に作り出すというのです。
ところが、人工呼吸器が必要な患者などに対しては症状が悪化する可能性があるのでアメリカでも投与は許可されていません。
このため、「バムラニビマブ」は軽症から中程度の症状でしから使用できません。
回復者血しょう治療
回復した人の血液から抗体が含まれた「血しょう」を取り出し、別の患者に投与する「回復者血しょう治療」が期待されています。
これまでに97人の回復者から血しょうが提供され、30代から60代の男性、合わせて6人に血しょうが投与されたということです。
いずれの患者も現在のところ異常は見られないということで、呼吸状態が悪化した中等症以上の合わせておよそ60人に投与し、安全性や効果を判断するということです。
しかし、「回復者血しょう治療」はアメリカでは緊急の使用が許可されていますが日本では、まだ承認されていません。
ここでも薬事承認の壁があります。
ドラッグラグ
海外では使われているのに、日本では承認に時間がかり時間差が生じます。これを「ドラッグラグ」と呼んでいます。
世界で初めて発売された薬が発売されるまでの平均期間は以下の通りです(2010年時点)
- アメリカ:0.9年
- イギリス:1.2年
- ドイツ:1.3年
- 日本は:4.7年
なぜ、日本は、こんなにも長いのでしょうか?
二重盲検
病気というのは、薬を飲まなくても人間の自然治癒力で治る場合もあります。
このため、本当に薬を飲んだから効果があったのか?という検証が必要になります。
これ、同じ人で検証することはできないので、薬を飲んだ人と飲まなかった人で比較するしかありません。
そして人にはプラセボ効果というものもあります。
プラセボ効果とは以下のようなものです。
- 効き目のある成分が何も入っていない薬(プラセボ薬)を服用しても患者さん自身が飲んだ薬に効果があると思ってしまうことで病気の症状が改善する
このため、新薬を使用する群とプラセボ薬を使用する群についてランダムに分けて比較することが最適といわれています。
これをランダム化比較試験と言います。
更に薬を服用させる医療従事者に対しても、どれが新薬かプラセボ薬なのかわからないようにして患者に服用させる試験を二重盲検と呼んでいます。
今回、アビガンの承認が認められなかったのは、以下の理由からです。
- アビガンの有効性をめぐっては、製薬企業が、アビガンか偽薬かを患者に伝えずに投与する「単盲検試験」と呼ばれる方法で治験を行い、「PCR検査で陰性になるまでの期間を2.8日短縮する効果が確認された」などとしていました。
- 一方、投与した医師は、アビガンか偽薬かを知っていることから、関係者によりますと「今回のデータでは、医師の先入観が影響している可能性を否定できない」などと、審議会の委員から慎重な判断を求める意見が相次いだということです。
- 富士フイルム富山化学は「治験において有効性を確認できたにもかかわらず、継続審議となったことは非常に残念だ。治験の方法や内容は専門家の意見を踏まえ、審査機関に提示して合意を得たものだ。今後、早期、承認取得に向けて厚生労働省などと審議結果を踏まえた対応を協議していく」などとコメントしています。
二重盲検ではなく、単盲検だったので投与した医師がアビガンかプラセボ薬なのかを知っていたことで医師の先入観が影響している可能性があるというのです。
富士フィルム富山化学は、治験の方法・内容は審査機関に提示し合意を得ていたのに、
治験方法に問題があるから、承認できないというのは、審査機関側の責任と言えます。
アビガンが効果のある薬だとして、これが投与できれば医療従事者への負担はかなり減るはずです。
審査機関側で情報共有ができていないという、つまらないことで、承認が遅れ、患者も、医療従事者も苦しまないとといけないというのは、何とも理不尽な話です。
日本の薬事承認というのは、審査機関側の「怠慢」により他国に比較して新薬の販売が4倍も遅れるという結果になっているのだと感じました。