グリコ・カフェオーレがない?
先週末、スーパーに行くとグリコのカフェオーレが一つもない。
これまでにも、何度かあったので補充が間に合っていないんだろうなぁと思いつつ空になっている棚を、よく見ると「システム障害により入荷未定」と小さな表示がされていた。
旧基幹システムから独SAPの「SAP ERP」から「SAP S/4HANA」へ更新した際に起きたこと。
その費用は、340億円以上。
本来、2022年12月で完了する予定だったが、今年の4月の入れ替えなので、1年3ヶ月も遅れたことになる。
そのため、当初の1.6倍の費用になっているとのことなので、元々は、約213億円だったのが、130億円近くも予算をオーバーしていることになる。
そうすると、今回の作業、1か月、約8.7億円要している計算。
これだけの金額をかけて更新したのに出荷ができなくなるほどのシステム障害って何が起きたのだろうか?と気になった。
何が起きたのか?
江崎グリコは売上高3325億円、営業利益186億円、当期利益141億円とのことで、ざっくり3年分の利益を基幹システムの更新に投資したことになる。
これは、大きな決断だと思う。
なぜ、そこまでしないといけなかったのだろうか?
SAP ERPというのは、バラバラだった業務プロセスを、SAPのベストプラクティスに基づいて標準化することで、無駄な作業や非効率なフローを排除し、業務全体の効率化を実現できるというのが売り。
そして、色々な言語に対応しているので、世界規模の企業に適している。
ERPというのは、「Enterprise Resources Planning」 の略で企業の資産である「人・モノ・金」を適切に分配・有効活用するように最適化するといった意味になる。
簡単に言うと、SAP ERPに社内の業務を合わせてもらうと、会社の業務全体を効率化できるようになりますよってこと。
とはいっても、なかなか、全ての業務をシステムに合わせられるものではないので、どうしても無理な部分はカスタマイズ(アドオン)を行い対応している。
そうすると、バージョンアップ等を行うと、カスタマイズした部分が考慮されていないので、不具合が発生し修正が必要になってくる。
そんなことから、本来、SAPを導入するのであればカスタマイズは一切、行わず、業務をシステムに合わせるというのが重要になってくる。
このため「システムの通りに仕事なんてできるか!」といった会社に、SAPは適していない。
しかし、SAPは、カスタマイズなどを行わなくても、無茶苦茶高い。
自分の感覚では、国内のERPシステムをカスタマイズした金額のざっくり3倍以上。
高いといいつつも、340憶円を超える費用が発生しているということは、カスタマイズが相当あったのだと思われる。
おそらく、長年使ってきたシステムで、必要に応じてカスタマイズを行ってきたので、結果的に膨大な量のカスタマイズを行っていなければ、ここまでの費用は発生しないはず。
SAPをなぜ、導入するのか?
SAPは高くて、使いにくい。
業界では常識のようになっている。
それでも、導入しているのはなぜか?
SAP ERPの売りは、「業務をシステムに合わせてくれれば業務改善とリアルタイムなデータ分析を提供します」というもの。
例えば、購買業務であれば、発注から納品、支払いまでのプロセスは自動化され部門間連携が円滑になり、担当者の業務は大幅に短縮され、ミスやトラブルの発生を抑制する。
データの流れが自動化され一元管理されるので、経営判断を行うためのデータ分析がリアルタイムにできる。
通常の基幹システムだと、人が締め処理といった処理を実行しなければ仕入・売上データが確定されないので、データ分析に使うことは難しいが、SAPだとそのようなことがなくなる。
そんなことから、SAPは、日本国内で1.2万社以上が導入している。
そして、SAPは、SAP ERPのサポートを2027年で終了すると発表した。
新製品である「SAP S/4 HANA」への移行を推奨している。
※当初は2025年で発表したが、発表後、種々の理由から更新が追いつかないことが判明し延長したものと思われる。
サポートが終了すると、システムの脆弱性が発見されても修正されなくなるということもあるが、不具合が発生しても、修正されない、問い合わせを行ってもサポート終了を理由に回答してもらえないようになっていくはず。
そんなことから既にSAP ERPを導入している企業にとってはSAP S/4 HANAへのアップグレードを迫られている。
江崎グリコの刷新プロジェクトを任された主幹ベンダは外資系コンサルティング会社のデロイト トーマツ コンサルティングだと言われている。
外資系は「ドライ」なので日本企業のように融通を効かせてはくれない。
今回、江崎グリコは、SAPには向いていない企業だったと思われる。
その上、外資系の企業に刷新プロジェクトを任せたことで、予定通りに更新ができなかっただけではなく、システム切り替え後になって致命的な問題が発生する結果となってしまい、1か月以上も出荷できない商品が出てしまった。
何が起きたのか?
江崎グリコでは以下のような発表を行っている。
- 2024年4月3日(水)、基幹システムを切り替えた際に発生したシステム障害により、乳製品・洋生菓子・果汁・清涼飲料などの「チルド食品」(冷蔵品)につきまして、現在、一部の受発注及び出荷業務に影響が出ております。
基幹システムの障害発生以降、当社の「チルド食品」(冷蔵品)を取り扱う全国の物流センターにおける業務を一時停止したうえで、全面的な復旧を目指しておりました。
しかしながら、18日(木)より一部再開したものの、物流センターでの出荷に関するデータ不整合等が発生したほか、想定していた受注に対して処理が間に合わず、出荷の停止を判断しました。お客様およびお取引先様にご迷惑をお掛けしております。「チルド食品」(冷蔵品)の出荷業務を再度停止させていただき、5月中旬の再開を目指して復旧作業に努めてまいります。なお、「チルド食品」(冷蔵品)以外の商品(常温・冷凍)の出荷業務は、継続して行っております。
【出典】当社基幹システム障害に伴う 「チルド食品」(冷蔵品)の一時出荷再停止に関するお詫び | 【公式】江崎グリコ(Glico)
江崎グリコは、具体的にシステムのどの部分、何が原因でシステム障害が発生したのかは発表していないが、アドオン部分での不具合が出たとしか考えられない。
それも、部分的ではなく、広範囲、相当な量に及ぶものと思われる。
こんなに遅れたあげくに、システム障害ということなので、江崎グリコには情報システム部門がないのではないか?と思っていたが、実際には、子会社で、「江栄(こうえい)情報システム」が存在している。
人数的にも200人を超えているので、情報システムにはかなり力を入れているものと思われる。
そして、SAP経験者の募集も行っているようなので、SAP経験のある人が不足していることが見受けられる。
【出典】【社内SE:SAPベーシス・インフラ担当】江栄情報システム | 江崎グリコ株式会社
やはり、アドオン部分が追い付いていないように思われる。
江崎グリコの新しい基幹システムは、今後、まだまだ不具合が出てくるような気がする。