僕の捨てられないもの。
それは・・・
僕が小学6年生の時のことです。
学校の授業が終わり、数人の友人たちと下駄箱に向かいました。
僕の下駄箱を見ると、小さな箱と封筒が一緒に入っていました。
その日は、2月14日でバレンタインデーでした。
下駄箱から箱と封筒を取り出して、誰からだろう?と封筒を見ていると、他の友人たちが気が付きました。
「チョコレートかぁ?」「おいおい!」「誰からだよぉ」と騒ぎだしました。
封筒にクラスと名前が書いてありますが知らない名前です。
箱は、かばんに入らなかったので手紙だけ、かばんに入れて箱は手で持ちました。
生まれて初めてもらったバレンタインデーのチョコレートなので、
どこの誰かはわからなくても、凄く嬉しかったです。
友達に悟られないように平静を装っていましたが、内心はドキドキしてきて舞い上がっていました。
学校を出ても、友人たちはチョコレートのことで盛り上がっていますが、僕の頭の中では、誰なんだろう?ということが気になって、友人たちが何を言っているのかは耳に入ってきません。
早く、帰って封筒の中身と箱の中を見たいという気持ちでいっぱいでした。
突然、友人の一人が僕の肩を叩いて、「おい!、そのチョコどうするんだよぉ?」とニヤニヤした顔で箱を見ています。
他の友人も同じように、ニヤニヤして、こっちを見ています。
チョコレートをもらって嬉しかったし、早く箱の中も開けてみたかったのですが、友人たちのニヤニヤした顔を見ているうちに、そんな気持ちとは別に、女の子からチョコレートをもらったことが恥ずかしいという気持ちが芽生えてきて、「こんなもの、いらない」とその場に投げ捨ててしまったのです。
捨てた瞬間、凄く心が痛みました。
すると後ろから鳴き声が聞こえて、女の子が二人、学校の方に向かって走っていく姿が見えました。
送り主は、あの子だった?・・・
友人たちも、泣きながら走っていく女の子の方を見ています。
友人は「捨てていいのか?」と聞いてきますが、もう後にはひけません。
僕は「いい」とだけ言って女の子を追いかけることもしないで帰りました。
その瞬間、僕の心の中は、嬉しくて舞い上がっていた気持ちから一転して、歯が痛いときのようにズキズキと心が痛み続けました。
申し訳ない、とんでもないことをしたという後悔の気持ち、僕にチョコレートを勇気を出して贈ってくれた女の子の気持ちを考えると、その日は眠れませんでした。
家に帰ってからのことは、正直覚えていません。
何度も、あの時のことを自分の頭の中で繰り返していました。
封筒は、かばんに入れてあったので、勇気を出して封筒に入っていた手紙を読みました。
中学で同じ部活に入りたいです。
といった内容が書かれてありました。
次の日、封筒に書かれてあったクラスに1人で謝りに行きました。
正直、なんて言えば良いのか頭の中は整理できていません。
とにかく、謝らないといけないという気持ちだけです。
クラスに向かうまで、色々なドキドキが入り混じっていました。
クラスの入り口で、どうしようかとウロウロしていると、教室から女の子が一人出てきました。
封筒に書かれてあった女の子の名前を言って、どこにいるのかを質問しました。
その子は、どこか怒っている感じで「あの子だよ・・・」と指さした方向を見ると机の上で、うつ伏せになっている子がいました。
「呼び出してもらえるかな?」とお願いしたのですが、無言です。
暫くして、その子が答えてくれました。
「昨日、チョコレートを捨てるのを見てショックを受けてるから・・・」
今、話しているのは昨日、泣きながら走っていった女の子を追いかけていた女の子で、友達なのでしょう。
きっと、僕を見つけて出てきてくれたのだと思います。
僕は教室の中には入らず、うつ伏せになっている女の子の方に向かって「ごめんなさい」と、お辞儀をして自分の教室に帰りました。
僕は1か月弱で卒業式を迎え、結局、チョコレートをくれた子とは一度も話すことも会うこともありませんでした。
それ以来、バレンタインデーになる都度、その時のことを思い出します。
バレンタインデーを迎える都度、心が痛みます。
その痛みは、今も薄れることはなく、思い出すとズキズキします。
僕が今でも捨てられないものは「封筒と手紙」です。
小学校の卒業文集に挟んで入れてあります。