インテル入ってる?
CPUといえば、インテルでした。
「インテル入っている(intel in it)」というCMが今でも記憶に残っていますが、これは日本発のものです。これが、きっかけとなり、Intel inside(登録商標)という20世紀最大のマーケティングプログラムが生まれました。
インテルは、半導体の神様と呼ばれたノイス博士とムーア博士が創業した会社です。
初代CEOは、ノイス博士、その後、もう一人の創業者のムーア博士2代目のCEOとなります。ムーア博士と言えば、ムーアの法則が有名です。
実際に米国のアポロ計画の際の巨大司令室に設置されていた全コンピュータの機能は現在のiPhone1台に集積されています。(※iPhoneのCPUはインテル製ではありません)
そして、グローブ博士、バレット博士オッテリーニ博士、クルザニッチ博士、スワン博士と変わっていきます。
8bitのCPUというとザイログ社のZ80、モトローラ社のMC6800でしたが、16bitCPUになると、MS-DOSパソコンで採用されたインテル社の8086に変わっていきました。
CPUの性能的には8086より、モトローラ社のMC68000の方が優れていたように思いますが、優れたものが必ずしも主流になるのではなく、売れたものが主流になるというのが世の常なので、インテル社はMS-DOSで採用されたことで、次のWindowsでも採用されうまく流れに乗れたのではないかと思います。
どうしても、家庭用ビデオデッキのVHSとベータマックスで比較してしまいますが、8086がVHS、MC68000がベータマックスに見えてしまいます。
しかし、最近、インテルの勢いがなくなってきたように感じます。
世界最速のスーパーコンピューター富岳が採用したCPUはインテルではなくARM製です。
そしてパソコンについても、インテル製よりもAMD製CPUが搭載されているものが増えているように思います。
インテル社
AMD社
ホームページですが、インテルも、AMDも洗練された感じかと思っていましたが、どちらも「えっ?」という感じでした。
インテルのCPU供給不足の理由
その背景には3つの要因があるかと思います。
1つ目は、10nmプロセスです。
これは10nmプロセスが立ち上がらないことで、CPU以外の半導体の生産にまで影響してしまったということが言われています。10nmというのは、CPU内の配線の太さになります。インテルが失敗したのは、10nmの製造ラインを自社開発で行ったからだという意見もありますが、これは少し違っているようです。
インテルというと、半導体集積回路の「チックタック」という製造手法が有名です。
A工場では最新の集積技術で半導体を製造し、B工場では次の集積技術を製造するラインの研究に使います。そして技術が確立した時点でB工場を主工場にして製造を行っていくというものです。A工場は逆に次の集積技術を製造するラインの研究に使われます。ムーアの法則よれば集積率は1.5年で2倍になるのですから1.5年に1回は新技術ができることになります。インテルのCPUは世界中で使用されているので世界中レベルで供給できるだけの能力が確保できないと製造ラインを稼働させられないという事情があります。つまり歩留まりが悪い状態では供給能力が確保できないのです。技術的には確立できていても安定供給という面でAMDとは違った側面の事情があるため時間がかかったということのようです。
もう一つが、設備投資を抑えたことです。
モバイル分野で、IntelのCPUに関する戦略は失敗に終わったことで、設備投資を抑えました。パソコンやサーバーが今よりも増えていくというないという判断です。半導体ラインというのは金食い虫なので、無駄なラインがあると経営に直撃してきます。しかしインテルが思っていた以上にCPUの需要が増えたことでCPUの供給不足に陥ったということになります。これが一番の要因なのではないかと思います。
そして、最後は、インテルのCPU不足にタイミングでAMDが第3世代「Ryzen」シリーズを発売したということです。
Ryzenシリーズは、インテルが稼働させることができていなかった10nmプロセスより更に細い7nmプロセスで生産されています。
AMDは7nm製造ラインを協業で作り上げました。
そして現在は、サーバーにまで影響し、Ryzenを採用するサーバが徐々に増えてきています。AMDというとインテル製CPUの互換品を作っているメーカーでインテル製より安価だというイメージでした。
それがインテルと同じグレードであれば、コア数も多く、スレッド数も多いので、スペックを見る限りは飛びつきたくなります。インテルにとっては一つの判断ミスから形勢を不利にしてしまう要因が重なり現在に至ったのだと思います。
インテルの巻き返しなるか?
Intelの第10世代Core iシリーズが2020年5月20日から販売されています。
Core i 3、5、7、9です。
コア数の最大が8から10に上がっています。
仕様を見るだけだと、正直、それだけ?って感じです。
このため、様子見という方も多かったようです。
これだけでは、第10世代で巻き返しは難しいと思います。
現在、インテルでは、CPUの中に周辺チップ(GPU、DRAM、各種コントローラ等)を全て組み込んだものを開発中です。
'Lakefield' Processors: Intel Core Processors with Intel Hybrid Technology
チップが立体構造になっているんですね。
これだと、今回、障害となった自社で生産するということが利点になります。
そして小さなパソコンが作れるようになるので、これまでのようにパソコン、サーバーだけではなく家電製品にもWindowsを搭載するということもできるようになります。
これまで、インテルは、半導体メーカに始まり、マイクロ・コンピューターの会社、コミュニケーションの会社、ネットワークの会社と時代といった具合に時代に合わせてミッションと戦略を変えてきています。
以下は、グローブ元CEOの言葉です。
「Only the Paranoid Survice」偏執狂のような心配症のみ生き残れる。という意味ですが。常に何かが原因で会社が上手くいかなくなるのでは?と心配し、常に変化の予兆を捕まえて事業戦略を変える。変化できない会社は自然淘汰されるという考え方です。
そんなインテルが、経営判断のミス、10nmの製造ラインの立ち上げが遅かったことをきっかけに、一番恐れていたはずの、変化に乗り遅れてしまったのです。