卒業式の季節
この時期になると、自分の卒業式のことを思い出したりします。
卒業式って本番より練習の方が長いんですよね。
あと、卒業文集の制作でクラス全員に見開き1枚分のスペースが与えられます。
そこへ、学校での思い出や将来何になりたいとか夢を書いたりするんですが僕は何を書けば良いのか決められず、居残りになりました。
何を書いていいのかわからないまま、時間ばかり過ぎていき、早く書かないといけないと焦ってばかりいました。
そんな時に、教室の窓から夕日が差し込んできて教室がオレンジ色に染まったんですね。
澄んだオレンジ色で教室の中が染まっていく光景は言葉では表現できないような美しさでした。
誰かに教えたいと思っても誰もいません。その瞬間に焦りの気持ちは、どこかに消えていき学校生活で楽しかったことが次々に浮かんできて書き上げることができました。
入学して直ぐに給食で出されたトマトが食べられずに居残り、そして、卒業間近に卒業文集の原稿が書けずに居残り。
トマトの時は友達に助けてもらい、卒業文集の時は夕焼けに助けてもらってここだけだと、居残りばかりだったように思われるかもしれませんが、この2回だけなんです。
トマトのことから書いていくと、次々に湧き出るように絵や文を書くことが出てきました。
出来上がったものを職員室に持って行き、何とか帰ることができました。
あとは、集合写真を撮影しました。
こういう時って必ず1人は、欠席して右上に別枠で登場するんですよね。
僕は、残念ながら別枠での登場は経験がありませんが、別枠はそれはそれで、思い出になりますよね。記念撮影の日に休んだってことがずっと記憶に残るんですから。
卒業式の練習
卒業式が近くなってくると体育館に集まり練習を行います。
卒業証書の授与、校歌、蛍の光、答辞、あと、卒業生と在校生が演劇のように行う・・・
- 「春です」
- 「今日は、六年生の皆さんが本校を巣立つ日です」
- 「ご卒業おめでとうございます」
(在校生全員で繰り返す)
みたいな、あれ何ていうのでしょうか?
調べてみたら、今は「呼びかけ」っていうみたいですね。
練習をしているときは、卒業という実感はあまりなかったのですが、「私達は卒業します!」と卒業生全員で叫んだセリフ、何度も歌い直した校歌、蛍の光での練習風景は今でも覚えています。
卒業式本番
卒業式当日の朝のことって覚えていないのですが、覚えていないってことは、いつも通りに学校に行ったのだと思います。
特別な感情や出来事があれば覚えているはずですよね。
学校に置いてあった荷物は事前に持ち帰ったり、前日は帰るときに教室の自分の椅子を体育館に運んでから帰ったので、教室に入っても椅子も何もなくて寂しい教室で騒いでいました。
黒い服を着た先生が教室に入ってきたときに、いつもと違うのは椅子がないだけじゃないことに察しました。
先生は、体育館に向かう段取りを説明して廊下で並んで待っているように告げて出て行きました。
卒業式が始まる
隣のクラスの列が前に進んだので、自分達も一緒に進みます。
いよいよ、卒業式が始まります。
体育館に入る前から拍手が鳴り響いているのが聞こえます。
体育館に入ると拍手に包まれ、照れ臭い感じがしましたが、練習の時にはいなかった、親、来賓、先生が普段とは違う黒い服を着ている姿を見て、これが本番で最後なんだとふと思いました。
卒業生全員が着席すると、ビヴァルディの四季が流れました。
「春です!」呼びかけの始まりです。
しかし、卒業式が始まってしまうと、何度も練習したことを行なうだけなので、感動とか感激というのは、あまり感じませんでした。
それは、卒業証書をもらっても、校長先生の話を聞いても、校歌や蛍の光を歌い終わっても同じでした。
今でも、卒業式本番より卒業式の練習が懐かしく感じるのですから不思議なものです。
卒業式の終わり
無事、練習通りに卒業式を終えることができました。
そして、卒業生は退場です。
今度は、大きな拍手に包まれながら卒業生は体育館から送り出されました。
出口が近づくに連れて、これが最後なんだという気持ちが強くなっていきました。
教室にて
教室に戻ったあとのことを、部分的にしか覚えていません。
教室では、みんなが無言だったような気がします。
ここも、記憶から抜けてます。
拍手で送りだされたことで、全員が今日でこの学校にくることはないんだと実感していたのではないかと思います。
僕は黒板に書かれている「卒業おめでとう」という文字を見たくなかったので、教室の窓の方を見ていました。
その時は、気がつきませんでしたが、黒板に書かれていた文字や絵、卒業式の会場の設営や準備を先生達がやってくれていたんですよね。
暫くすると先生も教室に戻ってきました。
色々と話をしてくれていたと思うのですが、話の内容は上の空で涙を堪えるのに必死でした。
このため、先生の最後の言葉を情けないのですが覚えてません。
でも、先生の言葉を聞いている内に1人が泣き出すと、みんなもつられて、泣き出しました。
みんな我慢していたんですね。
教室を出たくない、まだ、先生や、みんなと別れたくない。
時間が止まって欲しいと願いました。
教室をどうやって出て、学校から誰と帰ったのかは、覚えていません。
集合写真も掲載された卒業文集と賞状だけを持って帰りました。
家に帰ってから
部屋に入り、卒業証書、卒業文集が入った手さげカバンを机の上に置きました。
暫く机の椅子に座ってボーっとしていたのですが、手さげカバンから少しだけ見えていた、卒業文集が気になり取り出しました。
バラバラとめくっていくと、最初に目に留まったのが先生の「僕は、もう知らない・・・」という言葉でした。
「もう知らない」が繰り返し書かれていました。
また、僕は泣いてしまいました。