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「もしドラ」は、AKB48用の映画企画だった?

もしドラ

 女子高校生マネージャーが、弱小野球チームを甲子園に出場させるという目標を持ってドラッカーの「マネージメント」に基づき弱小チームを変えていくというストーリーの大ベストセラーとなった小説です。 

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正式なタイトルは長いのですが、”もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネージメント」を読んだら”です。

僕もこの小説を読んだのですが、とても面白かった記憶があります。

この小説の主人公だけでなく、この小説を読んでドラッカーの本を始めて買って読んでみたという方も少なくないのでは?

僕は、ドラッカーというと2002年に出版された「ネクスト・ソサエティ」を思い出します。

本の内容は先進国に共通する問題である少子高齢化に対応した、雇用・マネジメントの変化について記述されたものです。何年か前から日本が直面している問題について18年以上も前に問題視していることからドラッカーの先見性に注目されがちですが、ドラッカーの凄い点は予見するだけではなく、どう対処すれば良いのか?という点についてもしっかりと記述している点です。

異常なほど分かってないやつ?

話を、もしドラに戻しますが、この本を書いた、岩崎夏海さんですがAKBグループのプロデューサーで有名な秋元康さんの下で放送作家を目指しアシスタントとして働いていたそうです。しかし、秋元さんの岩崎さんに対する評価はベストセラー作家となったあとでも以下のように厳しいものでした。

秋元さんに師事していた岩崎夏海さんについて、「僕の下に付いた中で、今まで一番『こいつは異常なほど分かってないな』と思ったやつが一人いて、それが岩崎でしたね。初めは放送作家になりたいといって来たけど、全然だめだった。放送作家は、ディレクターやプロデューサーがやりたいことを一緒に話すわけだけど、やりたいことが先だった。だから、それくらい外れると、ああいうふうに当たるんだなと思いましたね」と明かした。

「みんなでよく海外に行ったりしたんだけど、バハマに行って、みんなマリンスポーツだ何だとワーッと騒いでる中、あいつは一人、(ガルシア・マルケスの)『百年の孤独』とかをプールサイドで読んでるんですよ。ちょっとおかしいでしょ。でも、いい意味でも、悪い意味でも、ぶれないよね」と評していた。

【出典】秋元康:「もしドラ」著者・岩崎氏は「異常なほど分かってないやつ」“元弟子”の素顔を語る - MANTANWEB(まんたんウェブ)

秋元さんは岩崎さんのことを、自分のやりたいことが中心で、人を見ていないから外れたことしかできないと思っていたようですね。人って何を考えて何を言うか?ではなくて行動に現れるものです。まさか、あの人が?という人が、とんでもない事件を起こしたりすることがありますが、表面的な付き合いだけで全てを判断できるものではありません。言葉とは反対のことを考えていたり、行ったりしているかもしれないのです。岩崎さんの場合は、ディレクター・プロデューサーとの話の中や、せっかくの海外なのにプールサイドで読書をしている姿に現れていたということですね。読書なんてどこでもできることなので、放送作家を目指しているのであれば、一緒に行った人達と騒いだりして親睦を深めたり、バハマでなくても行えるような読書ではなく、バハマでないと体験できないようなことを行ったり体験したりすることの方が放送作家の経験としては大切なはずなんです。当時の岩崎さんには、それが分かっていなかったということです。

岩崎自身の思いは?

秋元さんの意見だけだと公平ではないので、岩崎さん本人の意見も探してみました。

以下の本で岩崎さんご自身の思いが語られていました。

『もしドラ』はなぜ売れたのか?

『もしドラ』はなぜ売れたのか?

  • 作者:岩崎 夏海
  • 発売日: 2014/12/12
  • メディア: 単行本
 

上記の本ですが、以下の分より始まります。

それは2006年8月末の、とても暑い日のことだった。ぼくは、師匠である秋元康さんから会社に呼び出され、次のように言われた。

「もう、おまえを放送作家としえ雇っておくことはできなくなった。そのため、明日からはおれの運転手として働いてもらうことにする。それがいやなら、残念だが、うちの会社は辞めてもらう」

【出典】書籍:「もしドラ」はなぜ売れたのか? 

岩崎さんは自分自身でも放送作家としては何の貢献もしていないことを自分自身、ずっと前からわかっていたそうです。

放送作家としての能力には限界を感じていた

放送作家としての能力には限界を感じていたので小説家への転身も図りましたが失敗しています。そして再度、放送作家に戻り秋元さんのアシスタントという形で働いてきました。しかしそれも、秋元さんから最後通告を受け取りました。

1日考えさせて欲しいと伝えたものの、自分の中では放送作家として働ける場所がないことはわかっているので、運転手として残る以外の道はありませんでした。

この時が岩崎さんにとっての最大の転機になりました。

この日の挫折が「もしドラ」を生んだ

この日の挫折があったので「もしドラ」を書くことができたとも書かれてあります。

放送作家、小説家として失敗した岩崎さんが、なぜ、「もしドラ」を書くことができたのでしょうか?

岩崎さんの答えは「時代の潮目を読んだ」ということです。更に、その時代で一番重要だったのは「学問的な価値を持つエンターテインメント」だったとも述べています。

少しわかりにくい表現なのでまとめると、娯楽作品でありながら読んで役に立ったり、あるいは学問的な知識を得たいという時代の欲求を読んだということになります。

既にある学問的な価値を持つエンターテインメント作品

このような作品はなかったわけではなく、既に色々と世に出ています。岩崎さんが感銘を受けた作品は、筒井康隆さんの「文学部唯野教授」という小説です。

大学の文学部で起こる教授菅野権力闘争を描いた作品で、合間に文学史や文学理論といった学問的な知識を差し挟んでいくというスタイルなので、岩崎さんの言われる学問的な価値を持つエンターテインメントです。

更に影響を受けたのは、ダン・ブラウン氏の「ダ・ヴィンチ・コード」で、殺人事件の犯人は誰か?というエンターテインメントに「レオナルド・ダ・ヴィンチ」とは何者なのか?という学問的な謎を加えた作品です。

このような作品を岩崎さんは、「アーカイブ(既存の作品)を引用した構造」という言葉で表現しています。ダ・ヴィンチ・コードではレオナルド・ダ・ヴィンチという画家の「科学者」という知られざる側面を紹介する構造になっていて、それが沢山の人を惹きつけたと説明しています。

ダ・ヴィンチ・コードを読まれた方であれば、違和感を感じたのではないかと思います。

岩崎さんはご自身で、何でもすぐに、「理解した気になる」という悪いくせがあって、いつも理解していないことに気づかされていたと言われています。こういった部分が、秋元さんが言われる「分かっていないやつ」の片鱗なのかな?

岩崎さんの持論

岩崎さんは、本の中で色々な持論を展開されています。

  • アーカイブ(既存の作品)を引用した構造がヒットの要因
  • 人間というものは意外なものを組み合わせると面白い効果が生まれることを経験的に知っている(例:美女と野獣カニとアボカドのカルフォルニア巻き、草食系男子)
  • 学問的価値を持つエンターテインメントが求められだろう
  • エンターテインメントコンテンツの顧客には圧倒的に男性が多い
  • 男性というのは同姓あるキャラクターに対しては同性愛者以外は興味を示さないが女性は同性に治しても強い関心や興味を示す

他にも、以下のような持論を述べていますが、本に書かれている情報だけでは、本当に呪われた店なのか?ということが理解できませんでした。

  • いつも通る駅前の商店街に何度もテナントが入れ替わる店舗があることに気づいた。2年で4つの店舗が入れ替わっている。これがいわゆる「呪われた店」というやつだなと思った。そこへ新しく入る店のオーナーはなぜ、そんな店に入るのだろうか?自分なら絶対に入らないのに・・・急に閃いた。そのオーナーは呪われた店だということを知らないのではないか?

どれも、岩崎さんご自身が感じたこと、つまり主観的なものあり客観的なものではないように感じます。

女子高生を主人公にした映画の企画を考えろ

岩崎さんは、秋元さんから「女子高生を主人公にした映画の企画を考えろ」と言われたそうです。そしてAKB48が主演の映画を作るつもりで依頼してきたものだと考えていました。

その頃、「ダ・ヴィンチ・コード」が流行っていたので、なぜ流行っているのかの分析を行います。その結果、エンターテイメントと学問的な知識の組み合わせが面白いといった構造が見えてくる。そしてリクエストの女子高生と学問的な知識を組み合わせることにした。

ファイナルファンタジーXIが、ドラッカーにめぐり合わせてくれた

そして学問的な知識を決定するに際して、岩崎氏がはまっていたゲーム(ファイナルファンタジーⅪ(以下FFⅪ))の存在がありました。

FFⅪはオンラインゲームで複数のプレイヤーが1つの世界に同時に参加して遊ぶことができるようになっていました。そして複数人で形成される組織がないとゲームがクリアできないということです。岩崎氏はゲームをきっかけに組織運営について興味を持ち、組織運営に関する情報を集めている中で一つの言葉が魚の小骨のようにひっかかりました。

  • 経営管理者の仕事は本質的に人々に命令することではなく、むしろ、いろいろなマネジメント職能に貢献させることである。

この言葉が、「ピーター・ドラッカー」のものであることを知り、ドラッカーの本を探しに行って、ひと際高く積み上げられていた、「マネジメント(エッセンシャル版)」を見つけたのでした。

がんばれ!ベアーズの存在

岩崎氏にはもう一つ、物語原型という考え方があります。物語には人の心をとらえてはなさいような基本的なパターンがあるということです。三谷幸喜さんも、ある一つの物語の原型で作品を作られていて、それが「がんばれ!ベアーズ」で、このことに強く共感して岩崎さんも「がんばれ!ベアーズ」を原型にした物語を作りたいと考えていました。

以上の内容が岩崎さんの中で重なり、「もしドラ」の原型が見えてきました。

  1. ドラッカーのマネジメント → マネージャー
  2. がんばれ!ベアーズ → 野球
  3. 野球 → 女子高生マネージャー
  4. マネジメントの対象であるマネージャーと高校野球のマネージャーを同じだと勘違いした、おっちょこちょいの女子高生がドラッカーのマネジメントを読んで野球部をイノベーションして甲子園出場に向けて頑張る

この物語のタイトルは「高校野球イノベーション」です。そしてこれが「もしドラ」の原型となったものです。

秋元さんに「もしドラ」の原型を提出

シノプシス(あらすじ)として書き上げて秋元さんに提出しました。

しかし、結果は、あっさりとボツでした。

理由は具体的な言葉は覚えていなくて、「ドラッカーなんて誰も知らないよ」「中高年の人なら知っているかもしれないけど、映画を見る中高生が知るはずがないじゃないか」みたいな内容だったということです。

ライブドア事件で転機が

秋元さんは、堀江さんがライブドアの社長の頃に、ライブドアのアドバイザーの仕事を請け負っていたそうです。このため毎週、ライブドアの企画会議等に参加していました。岩崎さんもアシスタントとして同行してライブドアでの会議は岩崎さんにとって重要な仕事の一つでした。しかしライブドアが事件で経営陣が起訴されたことで、その仕事がなくなってしまいます。これで岩崎さんの仕事はほぼなくなり、秋元さんに最後通告を渡されたということです。

冒頭では、放送作家として能力には限界を感じていると書かれてあるのですが、別の個所では、最後の通告のあとも自分の能力は依然高いと思っていたとも書かれています。

具体的には、自分には面白いものを作ったり考えたりする能力はあるけど、それを人に面白いと思わせたり感じさせるプレゼン能力がないから自分はエンターテインメントの世界では何の価値も生み出せないというのです。

自分を捨てたことで変化が

秋元さんからの最後通告で岩崎さんは運転手としての道を選び、このことで色んな気づきが得られたそうです。

  • 自分には義務や責任を負う覚悟がなかった。
  • 自分の話をするより相手の話を聞くように変わった。
  • 相手の話を否定せず、相手が期待する答えを言おう。
  • 相手の気持ちを斟酌(しんしゃく)して心を読み解く

その結果、自分を避けるようにしていた人たちが逆に近づいて話しかけてくれるようになりました。「人間関係というものは、自分を捨てれば簡単だ」という気づきも得ました。そんなことを1年半続けたことで、以前よりも広い視野で物事を見られるようになった。大人としての責任や覚悟を引き受けることができるようにもなった。そんなことから自分が成長しているということを実感しました。

秋元さんからの独立

そんな岩崎さんは、以下の理由から秋元さんの下から離れて独立する決意をしました。

  1. 秋元さんの岩崎さんへの接し方が依然と何も変わらない
    (岩崎さんが成長したことに気づいてくれなかったと感じていた)
  2. AKB48のオーナーをしていた人は、岩崎さんより年下なのに秋元さんと正面から渡り合っていた姿に刺激を受けた

再就職

秋元さんのところを出て、インターネットのコンテンツ制作会社に正社員として就職した岩崎さんは、規則正しい生活を送れるようになりました。

秋元さんのところでは規則正しい生活が送れなかったということで土日が当たり前のように休めるので日曜作家を始めるようになります。

しかし、書くということに対してブランクが長く、文章力がさび付いてしまっていたのでブログを書くことを決めました。

そして「もしドラ」公開

ブログを始めて、3か月を過ぎたころから書くネタがなくなってきて、思い出したのが秋元さんにボツを出された、女子高生の話です。

そうです、ついに「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら」の公開が始まったのです。

自信をもって公開した作品でしたが、公開初日は意外にも反応がありませんでした。

しかし、翌日、有名なニュースサイトで紹介されたことで状況が変わり人気記事に変わりました。そして、公開から3か月が過ぎたころ、連絡を頂きたいという内容のコメントがつきました。コメントにはメールアドレスが記載されており、メアドのドメインは出版社のものでした。最初はアンチによる悪戯だと考えて返信しなかったのですが、もしも本当だったら?と考えてダミーのメールアドレスを取得して返信しました。

これがきっかけで、「もしドラ」が出版されました。

と、ここまでが岩崎さんの書かれた本の内容です。

分かってなくても発想が面白く読みやすい

僕の率直な感想は、秋元さんの「異常なほど分かっていないやつ」という言葉がピッタリだということです。これ以上、的を得た表現はないと感じました。岩崎さんは自分のことばかり見てきたのでしょう。正確には人のことを見る余裕がなかった。このため考え方・感じ方が自己をベースとしたものになりがちで、このため、分かっていないやつになってしまったのだと思います。

もしドラ」もそういう面は多々、感じられますが、女子高生がビジネスマンのバイブルのようなドラッカーの「マネジメント」に基づいて野球部をマネジメントするという発想はとても面白いものだと思います。

野球の戦術、ドラッカーの思想とは大きく異なる内容もあったと思いますが、女子高生だからということで許されてしまいます。ドラッカーのことを知りすぎた人が書くと、難しくなってしまいここまで多くの人に読まれることはなかったと思います。

野球に例えると偶々、バットがボールに当たり飛んでいったところが浅い守備のセンターを超えていき、深いところへ転がっていき、あれよあれよという間にホームに返ってきてしまったという感じでしょうか。

岩崎さんの文章は、とても読みやすいので一気に読めてしまいます。どんなに面白い本でも読みにくいものは最後まで読んでもらえません。

読みやすいというのは、作家にとってすごいアドバンテージだと思います。