人のと接触を8割減らす、10のポイント
新型コロナ対策の専門家会議が示した、人との接触を8割減らす「10のポイント」には、ナッジの考え方が活かされているそうです。
これは、外出禁止といった強い要請ではなく、どうやって多くの人に行動を変えてもらうか?という観点から考えられたことです。
ナッジとは?
では、ナッジって何でしょう?
ナッジ(nudge)とは、直訳すると「ひじで軽く突く」という意味です。 行動経済学や行動科学分野において、人々が強制によってではなく自発的に望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法を示す用語として用いられています。
「帰省を控えて」と言われると帰省は禁止!って感じですが、「ビデオ通話でオンライン帰省」と言われると、今はオンラインという選択肢もあるんだなぁって感じになります。同様に、「外食を控えて」ではなく「飲食は持ち帰り、宅配も」と言われるとこちらも、テイクアウトやデリバリを使ってみようかな?って感じになります。
あと、禁止というのは普段の行動を制限されることから「損失感」が生じます。そうすると行動を変えることが辛いことになってしまいます。今回は普段の行動を変えて頂くことが目的なので、損失感が生じないようにする必要があったのです。
つまり、今回の10のポイントは、禁止!するという表現は一切なく、「xxxするなら、こうしてください」という具体的な場面での望ましい行動を伝える表現になっているんですね。
2020年4月7日に一部の都道府県で緊急事態宣言が出され、その後、4月16日には全国に展開しました。その間、国民は自粛ばかりでストレスが溜まっています。
そのような背景を考慮しての今回の「10のポイント」になったのでしょう。
宇治市が庁舎内のトイレでの手洗いに対してナッジを活用したそうです。
トイレに以下のような文章が大きく書かれたポスターを貼り付けたそうです。
- となりの人は石鹸で手を洗っていますか
こんな風に書かれていたらどう感じますか?
これって自分が隣の人を見るのですから、他の人も自分を見ている?ってことになりますよね。
トイレというと、最近、以下の表示をよく見かけます。
- このトイレはお客様のご協力により清潔に保たれております
これも、ナッジを活用した表現方法ですね。
注意されて逆切れをする人が増えている日本では、このような表現は大切です。
ナッジを考える場合
ナッジを考える場合「BASIC」に基づき行います。
- Behavior: 人々の行動をみる
- Analysis :行動経済学的に分析する
- Strategy :ナッジの戦略を考える
- Intervention: ナッジによる介入をする
- Change :変化を計測する
考えたナッジをチェックする
そして、実際に選択したナッジが適切かどうかをチェックするためのチェックリストがあります。
それが「EAST」です。
- Easy :簡単か
- Attractive :魅力的なものになっているか
- Social :社会規範を利用しているか
- Timely :意思決定をするベストタイミングか/フィードバックは早いか
厚生労働省では、ナッジが色々な場面で利用されているようで、ナッジに関する文書も公開されていました。
受診率向上施策ハンドブック(第2版)について
- がん検診対象者に対して、ただ説明するのではなく、「行動に至るきっかけの提供」を目的とした、より効果的な取り組みとして、行動経済学の「ナッジ(nudge)(※)理論」に基づいた好事例を紹介するものです。
【出典】厚生労働省
- 受診率向上施策ハンドブック(第2版)について
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_04373.html
乳がん検診の受診をしてもらうために、まず、テレビ番組(NHK「ガッテン︕」* テーマ “乳がん検診”)で検診の重要性を伝えて、同じタイミングで⾃分宛の乳がん検診の受診案内が届くということを行っているようです。
これって実に戦略的なやり方だと思います。
単に検診の案内が届いても封も切らずにそのまま捨ててしまうかもしれません、仮に封は開けても内容がわからず、ゴミ箱へということになるかもしれません。
しかしテレビ番組で乳がん検診の重要性についての知識や関心が高まった状態で案内が届けば全く違った結果になるはずです。
ナッジには色々な手法があります。
- アンカリング
健康に関連すれば、お皿や袋の大きさによって食べる量が変わります。
お皿を大きくすれば、つい多くを盛り、たくさん食べてしまう。大きな袋よりも、小さな袋で小分けしたほうが食べる量は少なくなります(日本のお菓子が例)バスケットボールのゴールに類似したゴミ箱を使
うと、ゴミをきちんと捨てるようになる。 - デフォルトオプション
人は、あらかじめ設定された標準的な選択肢(デフォルト=初期値)を受け入れがちです。デフォルトオプションに近い理論に「現状維持バイアス」があります。これは、未体験のものを受け入れたがらず、現状を維持したいと感じ、同じ行動を繰り返すことを言います。最初に購入した車と同じメーカーの車を買い続けるなどです。
例)ジェネリック医薬品の推進のため、希望しない場合に処方箋にチェックを入れる。 - フレーミング
同じ内容でも表現や提示によって心象や意思決定への影響が変わることをフレーミング(フレーミング効果 )と言います。
例)100人中10人が失敗する手術″より〝成功確率90%の手術″のほうがよさそう
今回の10のポイントで使われたナッジの手法は、フレーミングになりますね。
しかし、ナッジが何でも活用できるとかというと、そうではなさそうです。
例えば、緊急事態宣言で、パチンコ店の営業自粛を促すような場合です。
営業自粛を要請しているなか、緊急事態宣言が延長になったことで、営業を再開してしまったパチンコ店が15店舗が店舗名を公開されたという報道がありました。
パチンコ店は、営業すれば客がくると考えているから都からの要請を無視して営業するわけです。逆に、パチンコ店が営業するから客が行くという考え方もあります。
つまり店が営業しない。もしくは客が行かなければ、問題はなくなるわけです。
国が決めた営業自粛を求める内容は以下の通りです。
- 業種を指定して自粛を要請
- 法律に基づき店名を公開すると宣言
- 店名を公開
- 休業指示(行政処分)
これは、国の方針に基づいたものですが、ここでは、ナッジ理論が使われていません。自粛と言いつつも、それは言葉だけで実質は禁止や強制するようなことばかりです。
ナッジ理論を使う前に、まず求めていることが簡単にできる行動ではないということです。
- パチンコ店に営業を自粛させる
→営業しなければ損失が生じるので難しい - パチンコ店に行かせない
→パチンコがしたいのにできないのは損失感を感じる
営業をやめれば収入がなくなり経営的にも生活も厳しくなり死活問題です。パチンコも習慣化してしまっているような人にとってはパチンコに行かないという行為はハードルが凄く高いことです。
どちらも簡単にできることではないのです。
やることが困難なことを、表現を変えても結果は同じなので、ナッジが使うことはできません。
しかし、営業を自粛しているパチンコ店、パチンコに行かない人の方が圧倒的に多いはずです。簡単ではないことをなぜ、出来ているのでしょうか?
それは、新型コロナウイルスに感染した時のリスクや、店名を公開されて店のイメージが悪くなることの方が重要だと判断しているからだと思います。
イメージが悪くなるとわかっていても営業を自粛しない店、ウイルスに感染するリスクがあるのにパチンコ店に行ってしまう人。この違いは、集団に対しての一つの法則によるものだと思います。
2-6-2の法則
「2:6:2の法則」をご存じでしょうか?集団が存在すれば必ず、2割の優秀な働きをするもの、6割の普通の働きをするもの、2割の何もしないものに別れるという法則です。これを実際に昆虫のアリで観察してみたところ、凄く働くアリが2割、普通に働くアリが6割と8割は働きますが、残りの2割はほとんど働かないということです。
で、この凄く働くアリだけを集めて、一つの集団にすると、やはり、2-6-2の比率で分かれてしまったそうです。集団があれば何もしない人が必ず2割いるということです。僕がセミナーでこの法則を聞いた時には、何もしない2割の中でも更に迷惑をかけるものが全体で5%存在するということを聞きました。
営業自粛を要請しているなか、緊急事態宣言が延長になったにも拘らず、5月7日から営業を再開したパチンコ店は約40店舗でした。
都遊技業協同組合によると、営業店数は7日の約40店から、8日午前は約50店に増加。都は9日以降、改正新型インフルエンザ対策特別措置法に基づく店名の公表を検討している。同組合によると、組合には都内のほぼ全ての約770店が加盟。インターネットで営業状況を調べたところ、7日に営業して8日に再び休業に転じた店もあったが、8日から新たに営業再開した店が上回った。
これを計算すると・・・
- 40÷770≒5.2%
約5%なので、理論通りということになります。
100人いれば5人は、何もしないだけでなく、邪魔さえする人がいるということなので、今回、強硬営業を行ったパチンコ店は当然の結果だと言えます。
パチンコに行っている人のデータは調べることができないのですが、おそらく同じような比率なのではないかと考えます。
その上で、この5%に対して望ましい行動を伝えるにはどうすれば良いのでしょうか?
今回、緊急事態宣言の延長を行なう際に、どうすれば終わるのかを伝えることができていなかったことで、もうこれ以上の自粛は無理だということで営業を再開したパチンコ店が40店舗ほどあり、それを知り、苦しくて我慢の限界だった店も続いたのだと思います。
パチンコ店にとって、わずかな協力金では意味がありません。終わりも見えず日々、収入はなく失費だけが増えていくのは耐え難いことだと思います。
自粛しているパチンコ店、その他の店舗は、そういう中で耐えてくださっているのですから凄いことだと思います。
休業補償もせずに営業を自粛してもらうというのは、どう考えても簡単なことではないんです。
そうすると、どうすれば営業を行えるのようになるのか?ということを考えるしかありません。
現在、日本はPCR検査の実施件数が少なく過ぎて、感染した場合の感染ルートが追えなくなるので、自粛を求めているのですから、感染ルートが追えれば感染するケースは増えるかもしれませんが、対処はできるようになるはずです。
しかし、ここでも問題があります。
感染者に対応できる医療施設・医療従事者への負担が更に大きくなるということです。これ以上、負担をかけるわけにはいきません。
それも、不要不急の娯楽のためになぜ、医療従事者の負担を増やしたり感染者を増やして多くの人が努力していることを水の泡にするようなことをしないといけないのでしょうか?そんな理不尽なことはできません。
そうすると、パチンコ店の営業を続けたままで感染を防ぐには、パチンコに行く人を抑制することになります。
これも簡単なことではないので、パチンコに行く人には「覚悟」を持って頂くことを求めます。
パチンコ店に入る際には身元確認を行うと共に、感染していないかを確認するために、家に戻る前には2週間隔離することに同意してもらうことになります。
他の方に感染させないためには当然のことです。
不要不急のパチンコに出かけることで色んな方に迷惑をかける可能性があるのです。これだけ生活が変わっている中で、自分だけは今まで通りの生活を貫こうというのは感染のリスクは考えていないということです。
単純に自分一人が感染して自分の命だけが失われるということではありません。クラスター感染が発生してしまい感染が拡がれば、これまで8割近くの方が色んなことを我慢して自粛してきた行為が水の泡になるのです。
自分のことしか考えないのであれば、他の人に負担をかけてはいけません。
同じような考えの人が集まる中で生活してください。というのが僕の考えです。
それができないということであれば、自粛してくださいということです。