新型コロナウイルス感染症対策の専門家会議の構成員の一人である、東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授の押谷仁氏が、2020年3月29日、新型コロナの拡大防止に向けたこれまでの取り組みと今後の方針を整理した資料「COVID-19への対策の概念」の暫定版が公開されており、なぜ、現在のような対策が必要になったのか?といったことが説明されています。
【出典】日本公衆衛生学会
R0(基本再生生産数)について
感染力の強度を示す指数として、R0(基本再生産数)があります。
R0とは、1人の患者が何人に感染を広げる可能性があるかを指すものです。
R0が1の場合、突発的な流行は起きませんが終息もしません。
R0が1未満の場合は、感染症は終息していきます。
そして、R0が2だと1人が2人に完成していくため鼠算式に増えていきます。
R0の計算式は以下の通りです。
- R0=(2次感染者数の合計) ÷ 1次感染者数の合計
例えば、以下のように感染者が増えた場合だと・・・
- 1人目=1人に感染
- 2人目=1人に感染
- 3人目=感染者0人
- 4人目=2人に感染
- 5人目=4人に感染
R0=(1+1+0+2+4)÷5=1.6 となります。
中国武漢で流行し始めた時のR0推定最大値は3.86だそうです。
1人から約4人に感染していったことになります。
これが都市閉鎖を行ったことで、R0は0.32~1.58に下がっています。
ウイルス感染の対策を行う場合に、通常は、この感染連鎖を検出して連鎖を全てを断ち切るというのが一つの方法になります。
2002年11月16日に、中国南部の広東省で非定型性肺炎の患者が報告されたのに端を発し、北半球のインド以東のアジアやカナダを中心に感染拡大したSARSでは、連鎖を全て断ち切ることができました。
そして、SARSの時には今回のように外出自粛や都市閉鎖といったことがなかったように思います。
R0(基本再生生産数)は新型コロナでは意味がない
では、新型コロナウィルスでは、なぜ経済の危機を招くことになるにも関わらず、外出塾や都市閉鎖といった対策を取っているのでしょうか?
これは、SARSと新型コロナウイルス(COVID-19)の感染した時の症状からです。
SARSは、感染すると多くの人が重症化します。
しかし、COVID-19は、多くの感染者が無症候・軽症なので、すべての感染連鎖を見つけることができないのです。
見つけるためにはPCR検査を全員に行うことになりますが、無理があります。
日本では、緊急事態宣言が出された時点で、R0は1を切っている状態でした。
しかし、新型コロナは無症状、軽症ということで実際には1人が何人に感染させたのかが把握できない状態でのR0という値は、意味がありません。
そうすると、感染連鎖を断ち切る方法は、人と人との接触を減らすしかなくなります。
テレビを見ていると、今日の感染者数が報道され、同時に感染経路が推定できる人とできない人の割合をグラフで示してくれます。
感染経路が推定できない人の割合が重要
問題なのは、感染経路が推定できない人の割合が徐々に増えていることです。
外出自粛を要請しているのは、感染経路を特定しやすくする目的もあるのですが、感染経路が推定できないということは、無症候の感染者から感染していることになります。
2020年3月20日からの3連休で多くの人が外出したことで症状が出ていない感染者からの感染が増えたのだと思います。
実際、3月21日を境に、感染者数が急激に増えていきました。
特定地域で4月7日に緊急事態宣言が出されて、約2週間後から感染者数が減る兆候が見えてきました。
5月1日には、東京都では165人の感染者でましたが、その内、感染経路が不明なのは47人ということなので、減ってきたとは言っても、まだ3割近い感染経路不明者がいることになります。
緊急事態宣言から、随分と経過し外出の自粛についても随分と進んでいるように思います。しかし、感染者、感染経路が特定できない感染者が劇的に減ったという感じはしません。この点について、専門家会議はどのように考えているのでしょうか?
15日間で1日の感染者数を100人にするための人との接触80%削減
以下は、新型コロナウイルス感染症対策専門家会議から、緊急事態宣言後、3週間が経過したこと等を踏まえ、最新の情報に基づいて状況分析を更新するとともに、提言を行なった文書になります。
以下、2020年4月22日時点での内容になります。
特定警戒都道府県の増加が全体の7割強を占めており、累積患者数は東京都が2,984 人、大阪府で 1,162 人となり、このうち、感染源(リンク)が分からない患者数の割合は、約 8 割にのぼった。
【出典】厚生労働省
上記によると、人との接触を80%削減することで、R0=0.500、65% 削減することで、R0=0.875になる計算だそうです。
流行対策開始前までは R0=2.5 で感染者数が増加する感染日別の新規感染者数は 80%の接触削減により 15 日間で 1 日 100 人まで減少する。しかし、接触の削減が 65%であると 1 日100 人に達するには 90 日以上を要する。
2週間で新規感染者を1日100人まで減少させるための80%削減ということです。
テレビやインターネットニュースの記事だけを見ていると、結果だけをどうしても報道するので、何故、外出自粛が必要になったのか?とか、現段階で緊急事態宣言の解除ができない理由が見えませんでした。
トイレットペーパーが足りなくなるといったデマで社会問題になった事例もありますので、必要な情報は正しい情報源から得る必要があると思います。
その中で、今回の情報を探す際に、見つけた情報源がありますので、ご紹介しておきます。
コロナ専門家有志の会
コロナ専門家有志の会というのは、政府対策本部の専門家会議、厚生労働省クラスター対策班等の関係者で組織されたものです。色々なことが分かりやすく書かれていますので、お勧めのホームページです。
治療薬の開発や既存薬の治験といった内容については、テレビではあまり報道してくれないのですが、コロナ専門家有志の会では、実にわかりやすく説得力のある内容が書かれています。いくつか紹介しておきます。
新型コロナの治療薬について
新型コロナのための既存薬の「治験」とは?
新型コロナの陰性証明書の提出は不要
最近、職場から新型コロナ陰性の証明書を求められて困っている方の声を耳にします。そこで、この記事では、働く皆さんにご理解いただきたいポイントをお伝えします。
新型コロナのPCR検査は、医師や自治体が必要と判断した場合に実施しています。 その指示がない方に対しては、事業者や従業員が依頼しても、検査できません。
PCR検査は、「100%」ではない
そもそも、PCR検査は、新型コロナの感染者を100%正確に「陽性」と判定することはできません。感染していても、次のような場合は陰性と判定されることがあるからです。
- 体内のウィルス量が少なかったとき
- 検体の採取がうまくいかなかったとき
上記によると、インフルエンザに対して厚生労働省は、職場が従業員に対して治癒証明書の提出を求めないよう示しています。その理由は、インフルエンザの陰性の証明は難しいことや、医療機関に負担をかける可能性があるためです。
Q.18:インフルエンザにり患した従業員が復帰する際に、職場には治癒証明書や陰性証明書を提出させる必要がありますか?
- 診断や治癒の判断は、診察に当たった医師が身体症状や検査結果等を総合して医学的知見に基づいて行うものです。インフルエンザの陰性を証明することが一般的に困難であることや、患者の治療にあたる医療機関に過剰な負担をかける可能性があることから、職場が従業員に対して、治癒証明書や陰性証明書の提出を求めることは望ましくありません。
【出典】厚生労働省
新型コロナウイルス感染症対策の専門家会議ですが、どのような方で構成されているのでしょうか?
新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
座 長
- 脇田 隆字 国立感染症研究所所長
副座長
- 尾身 茂 独立行政法人地域医療機能推進機構理事長
構成員
- 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所所長)
- 押谷 仁 (東北大学大学院医学系研究科微生物分野教授)
- 釜萢 敏 (公益社団法人日本医師会常任理事)
- 河岡 義裕 (東京大学医科学研究所感染症国際研究センター長)
- 川名 明彦 (防衛医科大学内科学講座(感染症・呼吸器)教授)
- 鈴木 基 (国立感染症研究所感染症疫学センター長)
- 舘田 一博 (東邦大学微生物・感染症学講座教授)
- 中山 ひとみ (霞ヶ関総合法律事務所弁護士)
- 武藤 香織 (東京大学医科学研究所公共政策研究分野教授)
- 吉田 正樹 (東京慈恵会医科大学感染症制御科教授)
【出典】内閣官房
新型コロナウイルスは、新型ということで情報についてはまだ不足している部分が多いので、デマが飛び交う可能性が高いです。このため、正確な情報源を持つというのは、デマに惑わされないためにも必要なことなので、今回、紹介した「コロナ専門家有志の会」の情報は一番、確実な情報だと思いますので、是非、活用して頂ければと思います。