長崎に停泊のクルーズ船、コスタ・アトランチカでクラスター感染が確認されたということで連日報道されていますが、そもそも、なぜ、今、日本にクルーズ船が停泊しているのかが、テレビでは省略されてしまっています。
長崎に停泊しているクルーズ船はどこの船?
- 名称:コスタ・アトランチカ
- 船籍:イタリア(コスタ・クロティエーレ)
- 重量:約8万6千トン
- 乗員:乗組員623人(修繕のため乗客は0人)
※ほとんどが外国籍の乗組員
現在、修繕のために長崎に来航しているということですが、元々は中国(上海)で修繕の予定でしたが、中国での新型コロナウイルスでの拡大を受けて断念し、2020年1月に三菱重工が受け入れを決めたということです。
2019年12月には長崎香焼工場の売却を検討するという報道があったばかりで、香焼工場で初の大型クルーズ船の修繕の受注が取れるということで三菱重工としては、その頃はまだ新型コロナウイルスがここまで拡がるとは思っておらず受けてしまったのでしょう。コスタ社の大型クルーズ船が他にも2隻、入ってきて同時期に3隻が入港していたことになります。2020年2月23日頃~2020年3月19日の間は3隻が同時停泊していたことになります。
2020年2月22日
コスタクルーズ社は上海市で修繕を予定していたが、中国での新型肺炎感染拡大を受け変更。同船は1月29日、客をほとんど乗せないまま長崎に寄港、香焼工場の岸壁に係留していた。
三菱重工によると、乗組員に感染者はいないが、上陸はさせない。船内での健康・衛生管理も徹底されているという。
2020年2月26日
三菱重工業長崎造船所香焼工場(長崎市)のドックと岸壁に、大型クルーズ船3隻が停泊する珍しい光景が広がっている。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、イタリアの船会社が中国の拠点で修繕・停泊する予定を変更したためだ。
停泊しているのは他に「コスタ・ベネチア」(13万5000トン)と「コスタ・セレーナ」(11万4000トン)。3隻とも船会社「コスタ・クルーズ」が、主に中国発着のクルーズで運航している。
クルーズ船入港以降の経緯
2020年1月29日 長崎港に物資補給のため入港
2020年1月31日 三菱重工 香焼(コウヤギ)工場に入る
2020年2月20日 修繕開始
2020年3月13日 長崎県が乗下船自粛を要請
2020年3月35日 修繕完了
2020年3月26日 松が枝岸壁に接岸(物資の補給)
2020年3月27日 試運転のため沖へ出港
2020年4月1日 再び三菱重工 香焼工場に停泊
【出典】KTNテレビ長崎
2020年4月末まで停泊の予定でした。
乗員の乗下船管理が不十分
2020年3月14日以降、乗員は船内にとどまっていたと三菱造船(三菱重工子会社)は説明していましたが、4月22日の記者会見では船会社の判断で乗員の下船が行われていたと訂正しています。
更に、2020年2月22日の時点で三菱重工は乗組員に感染者はいないが、上陸はさせない。船内での健康・衛生管理も徹底されていると発表していましたが、少なくとも3月13日までは上陸させていた状態で、それ以後も上陸は続いていたので三菱重工業の管理責任が問われることは必至です。
同時期にコスタ社の3隻のクルーズ船が停泊していたことで、クルーズ船間で移動した可能性もあります。
長崎県からの乗下船自粛要請があったあとも、乗下船が行われていたことから、行動履歴が見えません。確認手段はイタリアの船会社からの聞き取りが主体になるので時間と手間が生じます。
乗下船の自粛要請が県内に周知徹底されていなかった。
長崎市の観光タクシーも2月以降、乗員をJR長崎駅や長崎空港などに送迎しており、4月に入ってからも複数回乗せていたそうです。観光タクシーの社長は乗下船の自粛要請を知っていれば対応は違っていたと話しています。4月23日~5月6日まで、この観光タクシー会社は臨時休業を決めています。
長崎県が自粛を要請していた後も、長崎県交通局の貸切バスで乗員が移動していたということです。長崎県交通局も自粛要請は把握していましたが、公共交通機関より安全と判断していたそうです。
長崎県はイタリア船籍だということで厚生労働省と調整し長崎県内の感染としては扱わないと発表していますが、入港した時点で感染者がいなかったのだとすると上陸したことで感染したということになるので長崎県内での感染になります。どこの国の船籍かはこの場合は関係ありません。
2020年4月1日以降の経緯
2020年4月14日 乗員1人が発熱
2020年4月19日 コスタ社が長崎市保健所に連絡
2020年4月22日 乗員33人の感染判明。知事が陸上自衛隊に災害派遣要請
2020年4月23日 陸自が活動開始。乗員14人の感染判明(感染者は計48人に
【出典】毎日新聞
三菱重工業が受け入れた事情
三菱重工業は造船事業が苦しいということもあり、長崎造船所香焼工場の稼働率が高まると期待していたのだと思いますが、結果的には新型コロナ感染で長崎県を巻き込んでしまう結果になりました。
三菱重工業は2019年12月18日、長崎市内に持つ2造船所のうち主力の香焼(こうやぎ)工場について、大島造船所(長崎県西海市)に売却する検討を始めたと正式発表した。2020年3月末をめどに結論を出す方向で協議を進めることで合意した。
クルーズ船感染の原因は、乗員を上陸させてしまったことによるもの?
2020年1月29日には既に日本に入港しており、この時点では感染者はいなかったということですが、これを信用した場合、4月1日以降にクルーズ船の乗員が新型コロナウィルスの症状が発症したということは、乗員が上陸したことにより感染したことになります。2020年4月25日時点で長崎県内の感染者数は17人ですが、クルーズ船で91人が感染しており、乗員の乗下船管理が行われておらず、行動履歴が追えない状態であれば船内だけではなく長崎県内のクラスタ感染が視野に入れる必要があります。
観光タクシーが、JR長崎駅や長崎空港にも送迎していたということであれば、県外にも広まっている可能性もあります。
長崎県は外国船籍だということで、関係ないというスタンスを取ろうとしているように受け取れますが、三菱重工業への指導・管理ができていなかったのですから長崎県は、ことの重大さを重く受け止めるべきです。